surah.translation .

(預言者*よ、)彼らは戦利品*について、あなたに尋ねる¹。言うのだ。「戦利品*はアッラー*と使徒*のもの²。ならばアッラー*を畏れ*、あなた方の間の状態を正し、アッラー*とその使徒*に従うのだ。もし、あなた方が信仰者であるというならば」。
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1 ムスリム*共同体における初の戦利品*の分配について、一部の教友*間で意見の相違が生じた。それで彼らは預言者*に、質問したのである(アッ=サアディー315頁参照)。 2 戦利品*は、預言者*ムハンマド*がアッラー*のご命令によって分配するのであり、彼以外の者が口出しすることではない(ムヤッサル177頁参照)。
(真の)信仰者たちとは外でもなく、アッラー*(のこと)が言及されればその心が慄き¹、その御徴(アーヤ*)が彼らに読誦されれば、それが彼らに(更なる)信仰心を上乗せする者たち。そして彼らの主*にのみ、全てを委ねる*者たちのことである。
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1 集団章23の訳注も参照。
(彼らは)礼拝を遵守し*、われら*が彼らに授けたものから(施しのために)費やす¹者たち。
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1 この意味については、雌牛章3の訳注を参照。
それらの者たちこそ、真の信仰者である。彼らにこそ、その主*の御許での(高い)位とお赦し、貴い糧¹があるのだ。
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1 「貴い糧」とはここでは、天国のことを指していると言われる(ムヤッサル177頁参照)。
(預言者*よ、戦利品*の件は、)あなたの主*が、あなたを真理と共に、あなたの家(マディーナ*)から出発させられたのと同様であった。実に信仰者たちの一派は、(出征を)まさしく嫌がる者たちだったのだが。¹
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1 アッラー*は預言者*に、クライシュ族*の隊商を襲撃(しゅうげき)すべく出征するよう、啓示によって命じられた(前掲書、同頁参照)。そして一部のムスリム*たちはそれを嫌がったが、このことは結局、ムスリム*たちの大勝利という結果につながる。同様に戦利品*の件は、当初は一部の者に不満があったものの、結局は公平な分配によって決着した、ということ(アル=バイダーウィー3:89参照)。
彼らは真理¹において、それが明らかになった後、あなたと議論する。彼らはまるで(死を)眼前にしながら、死へと連れて行かれる者たちのようである。
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1 ここでの「真理」は、戦いのことであると言われる(ムヤッサル177頁参照)。
(議論する者たちよ)、アッラー*があなた方に、二派¹のいずれか(に対する勝利)をお約束になった時のこと(を思い出すがよい)。あなた方は武装している者たちではない方(隊商)が、自分たちのものとなることを望んでいた。そしてアッラー*はその御言葉²によって真理を確立させ、不信仰者*たちを一人残さず根こそぎにされることをお望みなのである。³
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1 一方は、戦いの必要もないほど軽装備な隊商で、もう一方は隊商を守るために出勤してきたマッカ*軍のこと(アッ=タバリー5:3775参照)。 2 この「御言葉」は、戦いのご命令、あるいは勝利のお約束のこと(アル=バガウィー2:272参照)。 3 アッラー*は、ムスリム*たちが武装したマッカ*軍と戦い、ムスリム*たちとその宗教が勝利し、確立することをお望みになっている、ということ(イブン・カスィール4:16参照)。
真理を確立させ、虚妄¹を無に帰させるため(、アッラー*はそのようにされる)。たとえ罪悪者たちが、(それを)嫌がったとしても。
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1 ここでの「真理」とはイスラーム*とその信徒、「虚妄」はシルク*とその民のこと(ムヤッサル177頁参照)。
あなた方が(敵への勝利に関して)自分たちの主*のご助力を求め、かれがあなた方に(こう仰せられつつ、)応えられた時のこと(を思い出すのだ)。「実にわれは、次々とやって来る千の天使*によって、あなた方を増強する者である」。
そしてアッラー*がそうされたのは、(あなた方の勝利への)吉報とし、それによってあなた方の心が安らぎを得るために外ならなかった。勝利は、アッラー*の御許からのみ。本当にアッラー*は偉力ならびない*お方、英知あふれる*お方なのだから。
かれがその御許から平安として、あなた方をまどろみで包まれ、天からあなた方の上に(雨)水をお降らしになった時のこと(を思い出すがよい)。それはあなた方(の外面な汚れ)をそれで清め、あなた方(の内面)からシャイターン*の汚れ¹を取り除き、あなた方の心を(忍耐*で)繋ぎとめ²、それによってあなた方の足元を確固とするためであった³。
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1イムラーン家章124-125と、その訳注も参照。 2 この「汚れ」は、シャイターン*の囁(ささや)きのこととされる(前掲書、178頁参照)。 3 「心を繋ぎとめる」とは、確固さと揺るぎのなさが備わること(イブン・アーシュール9:280参照)。 4 バドルではマッカ*軍が先に水場を確保してしまい、それによってムスリム*たちは喉(のど)の渇きを癒(いや)すことも出来ず、礼拝の際の清めも叶わない状態となった。一部の者たちは先行きが心配になったが、雨が降ったことにより問題は解決し、両軍の間にあった砂丘も雨によって固まった(イブン・カスィール4:23参照)。
(預言者*よ、)あなたの主*が天使*たちに、(こう)お伝えになった時のこと(を思い起こさせるのだ)。「われはあなた方と共にある。ならば信仰する者たちを、堅固にするのだーーわれは、不信仰に陥った者*たちの心に恐怖を投げ込もうーー。そして(信仰者たちよ、)彼らの首を打ち、彼らの指の節々すべてを断ち切ってやる¹がよい」。
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1 「指を断ち切る」のは、武器を使えないようにするため(イブン・アーシュール9:283参照)。
それというのも、彼らがアッラー*とその使徒*に反していたからなのである。そして誰であろうと、アッラー*とその使徒*に反する者(、アッラー*はその者を罰される)、というのも、実にかれは厳しい懲罰を与えられるお方なのだから。
それ(が、懲罰)である。ならば、それを(現世で)味わうがよい。そして不信仰者*たちにこそは(来世において)、業火の罰があるのだ。
信仰する者たちよ、進軍中に不信仰に陥った者*たちと出逢ったならば、彼らに背を見せるのではない。
そして、その日彼らに背を向ける者は誰でも、戦闘(における策謀)のために(いったん戦線から)脱けたり、あるいは(味方の別の)一団に編入したりするためでない限り、確かにアッラー*からのお怒りと共に戻った¹ことになるのである。そしてその住処は、地獄である。その行き先は、何と醜悪であろうか。
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1 「アッラー*のお怒りと共に戻った」については、雌牛章61の訳注を参照。
ならば(信仰者たちよ)、あなた方が(自分たちの力で)彼らを殺したのではなく、アッラー*が彼らを殺されたのである。また(使徒*よ、)あなたが投げた時、(実は)あなたが投げたのではなく、アッラー*が投げ給うたのだ¹。そして(アッラー*がそうされたのは、)かれがそれによって、信仰者たちをよき試練におかけになるためであった²。本当にアッラー*はよくお聞きになるお方、全知者であられるのだから。
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1 ここで預言者*が投げたのは、敵軍に向かって投げた砂粒である、とされる。アッラー*はそれを敵軍まで到達させて命中させ、彼ら全員の戦力をお下げになった(イブン・カスィール4:30参照)。
それ(は、アッラー*によるもの)である。そしてアッラー*こそは、不信仰者*たちの策略を脆いものとされるお方なのだ。
(不信仰者*たちよ、)もし、あなた方が裁決を求める¹のなら、裁決は確かにあなた方のもとに到来した。また、もしあなた方が(不信仰と、ムスリム*との戦いを)やめるのなら、それがあなた方にとってより善いのである。そして(ムスリムとの戦いに)戻るというなら、われら*も(あなた方に再び敗北をもたらすべく)戻って来よう。また、あなた方の集団など、あなた方にとって何の役にも立たないのである。たとえ、それが多勢であろうと(、同じこと)。本当にアッラー*は(そのご援助によって)、信仰者と共にあられるのだ。
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1 この「裁決を求める」とは、決戦前にマッカ*軍の指揮官アブー・ジャハル*が口にした、「アッラー*よ、近親との絆(きずな)を断ち切ってばかりいて、我々の知らないものを我々にもたらした者たちを今朝、滅ぼして下さい!」という祈りのことである、と言われる(アル=ハキーム2:389参照)。
信仰する者たちよ、アッラー*とその使徒*に従え。そして(クルアーン*を)聞いているのに、彼(使徒*)に背いてはならない¹。
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1 使徒*に背くことは、アッラー*に背くことに等しい。婦人章80も参照(イブン・アーシュール9:303参照)。
また、聞いてなどいないのに、「私たちは聞きました」と言う者たち¹のようになってはならない。
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1 クルアーン*を「ちゃんと耳で聞いている」と言いながらも、それを熟慮(じゅくりょ)しないシルク*の徒や偽信者*たちのこと(ムヤッサル179頁参照)。
本当にアッラー*の御許で、地上を歩く生き物のうちでも最悪のものとは、弁えることのない聾と唖¹たちのことなのである。
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1 この「聾」と「唖」については、雌牛章18の訳注を参照。
もしアッラー*が彼らの内に善いこと¹があるのをご存知だったなら、彼らにお聞かせになった²であろう。そして、たとえお聞かせになったとしても、彼らは身を翻して背を向けるのがおちなのだ。
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1 「善いこと」とは、幸福な運命、あるいはアーヤ*から益を得ること(アル=バイダーウィー3”98参照)。 2 クルアーン*の訓戒と教示をお聞かせになり、アッラー*のお話を理解させられたであろう、ということ(ムヤッサル179頁参照)。
信仰する者たちよ、アッラー*と使徒*に応えよ、彼(使徒*)があなた方を生かす物事¹へと呼びかけた時には²。そしてアッラー*が人とその心の間を遮られること³を、また、あなた方がかれの御許にこそ召集されるということを知れ。
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1 「生かす物事」の解釈には諸説あるが、アル=クルトゥビー*によると多くの学者は「服従行為、及びクルアーン*が命じ、禁じることの遵守(じゅんしゅ)のこと。というのも、そこには永遠の生と恩恵があるからである」としている(7:389参照)。 2 この言い回しは、アッラー*とその使徒*が招くものは全て「生かす物事」であることを意味し、またそこにおける利益と英知を説明している(アッ=サァディー318頁参照)。アーヤ*20の訳注も参照。
そして(信仰者たちよ、)決して、あなた方の内の不正*者たちだけに降りかかるわけではない試練から、身を守るのだ¹。そして、アッラー*が厳しく懲罰されるお方であることを知れ。
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1 アッラー*こそは全ての物事をご自由に操(あやつ)られるお方で、人間を、その心が望むものから遮ることもお出来になるお方である(ムヤッサル179頁参照)。
また、あなた方が地上(マッカ*)において無勢で、抑圧された者たちであり、人々があなた方のことを攫ってしまうことを怖れていた時のことを思い出すがよい。それから、かれ(アッラー*)はあなた方が感謝するようにと、あなた方を(マディーナ*に)住まわせ、そのご援助によって、(バドルの戦い*で)あなた方を支えられ、あなた方に善きものの内からお恵みになったのだ。
信仰する者たちよ、アッラー*と使徒*を裏切ってはならない。そして(それを守る義務を)知りつつ、あなた方の信託¹を裏切ってもならない。
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1 正しい者*でも、不正*者たちと共にあり、その能力があるにも関わらず彼らの不正を正さないならば、彼らと同じ試練に晒(さら)されることを意味する(前掲書、同頁参照)。 2 「信託」については、婦人章58、部族連合章72の訳注を参照。
そして(信仰者たちよ)、知るのだ。あなた方の財産と、あなた方の子供は試練¹であり、アッラー*の御許にこそ偉大な褒美があるということを。
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1 財産や子供は、人がそれゆえにアッラー*に感謝し、そこにおいてアッラー*に服従するか、あるいはそれゆえにアッラー*への服従をおろそかにしてしまうかどうかの、試練である(ムヤッサル180頁参照)。
信仰する者たちよ、もしあなた方がアッラー*を畏れる*ならば、かれはあなた方に(真理と虚妄との)識別¹をお授けになり、あなた方のためにその悪行を帳消しにされ、あなた方をお赦し下さる。アッラー*は、偉大な恩寵の主であられる。
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1 現世と来世における活路、救い、勝利といった解釈もある(イブン・カスィール4:43参照)。
そして(使徒*よ、)不信仰に陥った者*たちがあなたを拘束したり、殺害したり、(故郷から)追放したりするために策謀していた時のこと(を思い起こさせよ)。彼らは策謀し、アッラー*も策謀し給う¹。アッラー*は、策謀する者の内でも最善のお方であられるのだ。
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1 「アッラー*の策謀」とは、彼らが気づきもしないような形で、彼らの策謀に対して罰で報われること(アル=クルトゥビー7:397参照)。同様の表現法の説明として、雌牛章15の訳注も参照。
われら*の御徴(アーヤ*)が彼らに読誦されれば、彼らは(無知と頑迷さから、こう)言った。「(これは以前にも、)確かに聞いたことがあるぞ。もしその気になれば、私たちはこれと同じようなものを語ったであろう。これは、昔の人々のお伽話に外ならないのだ」。
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1 アッラー*はクルアーン*と同様のものを作ってみるよう仰せられたが、彼らにはそれが叶わなかった(アッ=サァディー320頁参照)。雌牛章23、ユーヌス*章38、フード*章13、夜の旅章88、山章33-34も参照。
彼らが、(こう)言った時のこと(を思い起させるがよい)。「アッラー*よ、もしこれが本当にあなたの御許からの真実であるなら、天から私たちの上に石をお降らしになるか、あるいは私たちに痛ましい懲罰をお与え下さい」。¹
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1 不信仰者*らは、その無知さ、頑迷さから、懲罰を早く下してみよ、と求めたものだった。家畜章57-58、ユーヌス*章50、フード*章8、雷鳴章6、夜の旅章92、巡礼*章47、蜘蛛章53-54、サード章16、相談章18、階段章1-2なども参照。
そして(使徒*よ、)アッラー*はあなたが彼らの中にいる限り、彼らを罰されない。またアッラー*は、彼らが(罪の)お赦しを乞う限りは、彼らを罰されたりするお方ではないのだ。
どうしてアッラー*が、彼らを罰されないだろうか?彼らは(信仰者たちを)ハラーム・マスジド*から阻んでおり、その後見人でもないというのに?その後見人とは、敬虔な*者たち以外にはないのである¹。だが彼らの大半は、(それを)知らない。
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1 「後見人」とは、ハラーム・マスジド*にふさわしい者たち(雌牛章217、悔悟章17-18も参照)のこと(イブン・カスィール4:51参照)。尚、「ハラーム・マスジド*の後見人」ではなく、「アッラー*と親密な者たち」(ユーヌス*章62の訳注を参照)という解釈もある(ムヤッサル181頁参照)。
聖殿(ハラーム・マスジド*)における彼らの礼拝は、口笛と手拍子以外の何ものでもなかった¹。ならば、あなた方が不信仰を犯していたことゆえ、懲罰を味わうがよい。
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1 この様子は、「ある種の人々が裸で、このようにしてタワーフ*していたこと(高壁章28とその訳注も参照)」「そのようなことをして、預言者*の礼拝を妨害していたこと(詳細にされた章26とその訳注も参照)」「信仰者たちを嘲笑していたこと」を表している、といった解釈がある(イブン・カスィール4:52参照)。
本当に不信仰に陥った者*たちは、アッラー*の道を阻むべく、彼らの財産を費やす。彼らはそれを費やすであろう。やがてそれは彼らにとっての悲痛となり、それから彼らは打ち負かされるのだ。そして不信仰だった者*たちは、地獄へと召集させられるのである。¹
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1 このアーヤ*は一悦に、バドルの戦い*での敗戦の雪辱を果たすべく、再戦にむけて大金を費やしたアブー・スフヤーン*に関して下ったとされる。しかしアーヤ*の意味は、同様の状態にある全ての不信仰者*に当てはまるものである(イブン・カスィール4:53参照)。
(それは)アッラー*が善いものから悪いものを分別され¹、悪いものを互いに積み上げてそれをまとめて重ねられ、そしてそれを地獄へと放り込まれるためなのだ。そのような者たちこそ、損失者なのである。
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1 「善いもの」とは信仰者、よい行い、よい施しのことで、「悪いもの」とは不信仰者*、悪い行い、悪い施しのこと(アル=バガウィー2:292参照)。
(使徒*よ、)不信仰に陥った者*たちに、(こう)言ってやれ。もし彼らが(不信仰と、信仰者たちの戦いを)やめるならば、既に過ぎ去ったこと(の罪)は彼らに赦されよう。そして、もし彼らが(バドルの戦い*の後、再びムスリム*たちとの戦いに)戻って来るならば(、われら*は彼らに報復しよう)、確かに昔の人々(に対するアッラー*)の摂理¹は先んじたのだから。
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1 使徒*を嘘つき呼ばわりし、不信仰において頑迷であり続けた者たちには、アッラー*の懲罰が下るという摂理のこと(イブン・カスィール4:55参照)。
また、試練¹がなくなり、宗教が全てアッラー*のものとなるまで²、彼らと戦うのだ。そしてもし彼らが止めるのであれば(、アッラー*は彼らに報われよう)、本当にアッラー*は彼らの行うことをよくご覧になるお方なのだから。
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1 ここでの「試練」とは、シルク*と、イスラーム*への妨害のこと(ムヤッサル181参照)。 2 宗教、服従行為、崇拝*行為がアッラー*のみに捧げられるようになるまで、という意味(前掲書、同頁参照)。 3 戦利品*の五分の四は、戦闘に参加した兵士に分配される(ムヤッサル182頁参照)。
そして、もし彼らが(あなた方信仰者の呼びかけに)背を向けたのであれば、アッラー*があなた方の庇護者*であることを知るのだ。(アッラー*という)その庇護者*は何と素晴らしいことか、そして(アッラー*という)その援助者は何と素晴らしいことか。
また、あなた方が戦利品*として得たいかなるものも、その五分の一¹はアッラー*と使徒*²、その近親³、孤児、貧者*、旅路(で苦境)にある者に属することを知るのだ。もし、あなた方がアッラー*と、識別の日⁴、両陣営が会した日に、われら*がわれら*の僕(ムハンマド*)に下したもの⁵を信じるのであれば(、そうせよ)。アッラー*は、全てのことがお出来になるお方である。
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1 戦利品*の五分の四は、戦闘に参加した兵士に分配される(ムヤッサル182頁参照)。 2 アッラー*とその使徒*の割り当て分は、ムスリム*の一般的な福利のために費やされる(前掲書、同頁参照)。 3 預言者*ムハンマド*の家系である、ハーシム族とムッタリブ族のこと。彼らは施(ほどこ)しを受け取ることが禁じられているので、これがその代わりなのだともされる(前掲書、同頁参照)。 4 「識別の日」とは、真理と虚妄の明暗が鮮明にされたバドルの戦い*の日のこと(前掲書、同頁参照)。 5 アッラー*からのご助力と勝利など、そこで現れた御徴の数々のこと(前掲書、同頁参照)。
あなた方が谷の(マディーナ*から見て)最寄り側に、そして彼らが谷の最も遠い側にあり、隊商があなた方よりも下方¹に位置していた時のこと(を思い出すのだ)。たとえあなた方が(前もって、両軍が会した時のような時と場所を)約束し合っていたとしても、あなた方はその約束を違えてしまったであろう。しかし(アッラー*が、あなた方を約束もなしに一堂に会させたのは、)アッラー*が、実現されることになっていたことをご決行されるため。(それは)滅びる者が明証によって滅び、生きる者が明証によって生きるため²であった。本当にアッラー*こそは、よくお聞きになるお方、全知者であられる。
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1 ムスリム*たちから見て、紅海方面の低地に位置していた、ということ(前掲書、同頁参照)。 2 イスラーム*の真実性と不信仰の嘘が、議論の余地なく明らかになった後、それでも不信仰にこだわる者が不信仰者*として、信仰者が信仰者としてあり続けること(イブン・カスィール4:69参照)。
(預言者*よ、)アッラー*があなたの夢の中で、彼ら(の数)をあなたに、少なくお見せになった時のこと(を思い起させるがよい)。そして、もしかれがあなたに彼らが多数であるのを見せになっていたら、あなた方は尻込み、その件¹について争い合ったことであろう。だがアッラー*は、(そのようなことから)無事に済ませられた。本当にかれは胸中にあるものを、ご存知になるお方なのだから。
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1 攻撃するかどうか、ということ(アル=バガウィー2:297参照)。
また、あなた方が会した時に、かれがあなた方の目には彼らを少なくお見せになり、彼らの目にもあなた方を少なくお見せになった時のこと¹(を思い出すのだ)。(それは)アッラー*が、実現されることになっていたことをご決行されるためだった。アッラー*にこそ、全ての物事は戻り行く。
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1 このことでムスリム*たちは勇気づけられ、一方の敵軍は戦闘の準備を怠(おこた)った(ムヤッサル182頁参照)。イムラーン家章13とその訳注も参照。
信仰する者たちよ、(戦いにやって来た不信仰者*の)集団と会したら、堅固であれ。そしてあなた方が成功するように、アッラー*を沢山唱念するのだ。
また、アッラー*とその使徒*に従え。そして争い合って、それゆえに尻込みし、(力と勝利への)勢いを失ってはならない。忍耐*するのだ。本当にアッラー*は(そのご援助によって)、忍耐*する者たちと共にあるのだから。
また、得意然として人々に見せびらかし、(自分たちと人々を)アッラー*の道から阻むべく、自分たちの家を出た者たちのようになるのではない¹。アッラー*は、彼らの行うことを包囲されている。
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1 隊商がマディーナ*軍をやり過ごし、無事マッカ*方面へと立ち去った後にも、マッカ*からの援軍は退去せず、彼らの名声が響(ひび)き渡るようにと、バドルに留(とど)まって音楽や酒*の宴(うたげ)を開こうとしたとされる(イブン・カスィール4:72参照)。
シャイターン*が、彼らの行いを彼らに煌びやかにして見せ、(こう)言った時のこと(を思い起させるがよい)。「この日、人々の内で、あなた方を打ち負かす者はいない。そして本当に私は、あなた方の援助者である¹」。それで両軍が会すると、彼(シャイターン*)は踵を返して後ずさりし、(こう)言ったのだ。「本当に私は、あなた方とは無関係だ。実に私は、あなた方の見えないものを目にしている²。本当に私は、アッラー*を怖れているのだ。アッラー*は厳しく懲罰されるお方である」。
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1 一説にクライシュ族*は、彼らと敵対関係にあったバクル属に攻め込まれることを恐れていた。そこでシャイターン*がバクル属出身のスラーカ・ブン・マーリクの姿を借りてこのように言ったのだという。また一説にシャイターン*たちは、スラーカとその軍勢の姿を借りて戦場に赴(おもむ)いたとされる(アル=クルトゥビー8:26参照)。
偽信者*たちと、心に病がある者たち¹が(こう)言った時のこと(を思い起させよ)。「その宗教(イスラーム*)が、これらの者たち(ムスリム*)を欺いたのだ!」誰であろうとアッラー*に全てを委ねる*者(、アッラー*はその者を見捨てられたりはしない)、本当にアッラー*は威力ならびない*お方、英知あふれる*お方なのだから。
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1 「心に病がある者たち」とは、イスラーム*に疑念を抱く、信仰心の弱い者たち(アッ=サァディー322頁参照)。尚、この「偽信者*たちと心に病がある者たち」とは、①マッカ*の不信仰者*たち、②マッカ*にいた偽信者*たち、③マディーナ*の偽信者*たち、④移住*せずにマッカ*に留(とど)まり、マッカ*軍と共にバドルの戦い*に出征したムスリム*たち、などといった説がある(イブン・カスィール4:75-76参照)。
天使*たちがその顔や背中を殴りつけつつ、不信仰だった者*たち(の魂)を取り上げる時のこと¹を、あなたが見るのならば!(彼らは、こう言う。)「(焼き尽くす)炎の懲罰を味わうのだ」。
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1 家畜章61、93とその訳注も参照。尚、これはバドルの戦い*のみならず、全ての不信仰者*が出くわすことになる状況である(ムヤッサル183頁参照)。
それは、あなた方自身が行ったことゆえ(の報い)である。またアッラー*が(公正に裁かれるお方であり)僕たちに対する不正*者などではないことゆえなのだ。
(彼らの結末は)フィルアウン*の一族と、それ以前の(不信仰)者*たちの習いと同様である。彼らはアッラー*の御徴を否定し、それでアッラー*はその罪ゆえに彼らを罰された。本当にアッラー*は、強力なお方、厳しく懲罰されるお方。
それというのもアッラーは、ある民に授けられた恩恵を、彼らが自分たちの状況を(敢えて悪い方へ)変えない限り、変更されることがないお方だからである¹。またアッラーが、よくお聞きになるお方、全知者であられるからなのだ。
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1 フィルアウン*の一族やクライシュ族*、彼らと同様の状態にあるシルク*の徒らは、現世での幸運・使徒*・啓典といった恩恵を授かったが、それに対して不信仰で応じた。ゆえにアッラー*は、彼らへの恩恵を変更された(アッ=シャウカーニ2:457参照)。雷鳴章11とその訳注も参照。
(彼らの結末は)フィルアウン*の一族と、(使徒*たちを嘘つき呼ばわりした)彼ら以前の者たちの習いと、同様である。彼らはその主*の御徴を嘘呼ばわりし、それでわれら*はその罪ゆえに彼らを滅ぼした。またわれらは、フィルアウン*の一族を溺れさせたのである。そして(彼らは)皆、不正*者であった。
本当にアッラー*の御許で、地上を歩く生き物の内でも最悪のものとは、不信仰に陥った者*たちのことである。彼らは信じないのだから。
(使徒*よ、彼らは)あなたが彼らと協定を結んだ後に、(アッラー*を)畏れる*ことなく¹、毎回、自分たちの協定を破る者たち²。
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1 協約を破ることにおいて「身を慎むことがない」という解釈もある(アル=カースイミー8:3020参照)。 2 当時のマディーナ*には、ユダヤ教徒のクライザ族のように、ムスリム*たちと安全協約を結んでは破ることを繰り返し、不信仰者*たちと共謀する者たちがいた(アル=バガウィー2:302参照)。
それで、もしあなたが戦争で彼らを捕らえたならば、彼ら(を罰すること)によって、その背後にいる者たちを散り散りにしてしまうがよい。(それは)彼らが、教訓を得るようにするためである。
また(使徒*よ)、もしあなたがある民による裏切り行為を怖れる¹というのなら、彼らに向けて(協定を)、等しく²投げ捨ててやれ。本当にアッラー*は、裏切り者たちをお好みにはならないのだから。
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1 たとえ明言なしでも、彼らの裏切りを示す証拠が明らかになったら、ということ(アッ=サァディー324頁参照)。 2 協定の破棄が、両陣営にとって等しく明確なものとなるように、という意味(ムヤッサル184頁参照)。
不信仰に陥った者*たちは、自分たちが(アッラー*の懲罰を)やり過ごしたなどと、断じて考えるのではない。本当に彼らは、(アッラー*を)やり過ごすことが出来る者ではないのだから。
また(ムスリム*たちよ、)あなた方は彼らに対し、力と、馬をつなぎとめておくことによって、出来る限りの準備¹をしておくのだ。あなた方はそれによってアッラー*の敵とあなた方の敵、そしてあなた方が(まだ)しらずともアッラー*はご存知であられる、彼ら以外の別の者たち²を脅かす。アッラー*の道において何か費やせば、あなた方は不正*を蒙ることなく、ふんだんに報われよう。
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1 アッ=サァディー*によれば、この中には、知力・体力・各種兵器などによるあらゆる「準備」のみならず、敵の悪を防ぐ政治力なども含まれる(324頁参照)。 2 「別の者たち」とは、まだ敵意を露(あらわ)わにしていない者たち(ムヤッサル184頁参照)。
また、もし彼らが講和に傾くのなら、(預言者*よ、)あなたもそこへと傾くがよい¹。そしてアッラー*に全てを委ねる*のだ。本当にかれこそはよくお聞きになるお方、全知者なのだから。
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1 預言者*ムハンマド*はブダイビーヤ*の年、シルク*の徒がムスリム*たちと講和と戦争の停止を申し出た時、それを条件つきで受け入れた(イブン・カスィール4:83参照)。
そして、もし彼ら(講和を結ぶ者たち)があなたを欺こうとしても、本当にアッラー*だけであなたには十分なのである。かれは、そのご援助と信仰者たちによって、あなたを支えられたお方なのだから。
また、かれ(アッラー*)は、彼らの心を結び付けて下さった¹。たとえあなたが地上にある全てのものを費やしたとしても、あなたが彼らの心を結びつけることは叶わなかった。しかしアッラー*が、彼らを団結させられたのである。本当にかれは、偉力ならびない*お方、英知あふれる*お方。
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1 信仰者の心をイスラーム*によって結びつけた、の意。ジャーヒリーヤ*において、人々は部族間で争い合い、マディーナ*の住民もまた互いに分裂していた(アッ=タバリー5:3886参照)。雌牛章85「身代金を払う」の訳注、イムラーン家章103も参照)。
預言者*よ、あなたには、アッラー*だけで十分なのである。そして信仰者たちの内で、あなたに従った者にとっても。
預言者*よ、信仰者たちを戦いへと駆り立てよ。もし、あなた方の内からの忍耐*強い者が二十人いれば、彼らは(敵)二百人を打ち負かすであろう。また、もしあなた方の内からの(忍耐*強い)者百人がいれば、彼らは不信仰に陥った者*たち千人を打ち負かすであろう。それというのも、彼らは理解することのない民¹だからである。
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1 イブン・イスハーク*によれば、「いかなる(正しい)意図も、正当性も、善悪の分別もなく戦う者たち」のこと(316頁参照)。
(信仰者たちよ、)今、アッラー*はあなた方に軽減された。そしてかれは、あなた方の内に弱さをお認めになったのである。もし、あなた方の内からの忍耐*強い者百人がいれば、彼らは二百人(の不信仰者*)を打ち負かすであろう。また、もしあなた方の内からの千人がいれば、アッラー*のお許しにより、二千人を打ち負かすであろう。アッラー*は(そのご援助と共に)、忍耐*強い者たちと共におられる。
地上で徹底的に痛めつける¹まで、いかなる預言者にも、捕虜を取ることは許されなかった。あなた方は現世のつまらぬ利益²を望み、アッラー*は来世³をお望みになる。アッラー*は偉力ならびない*お方、英知あふれる*お方。
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1 イスラーム*とムスリム*の滅亡を望んで叩く不信仰者*を徹底的に痛めつけるまで、ということ(アッ=サァディー326頁参照)。次アーヤ*とその訳注、およびこの件に関し、ムスリム*たちの勢力が強くなってから下ったムハンマド*章4も参照(アル=バガウィー2:310参照)。 2 バドルの戦い*で捕まえた捕虜を、身代金と引き換えに解放することなど(ムヤッサル184頁参照)。
もし、(戦利品*と捕虜の身代金が合法化されるということを)先んじ(て記し)た、あなたの主*からの書¹がなければ、あなた方には自分たちが手にしたものゆえ、この上ない懲罰が降りかかったことであろう。²
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1 この「書」とは、守られ死、碑板*のこと(アッ=タバリー5:3897参照)。 2 以前の預言者*たちとその共同体にとって、戦利品*を手にすることは禁じられていた。しかしバドルの戦い*の後、ムスリム*たちは戦利品*を手にし、捕虜の身代金を取った。このアーヤ*は、このような状況で下ったとされる(アル=バガウィー2:310参照)。
ならば、あなた方が戦利品*としたものから、合法で善きものを享受するがよい。そしてアッラー*を畏れ*よ。本当にアッラー*は赦し深いお方、慈愛深い*お方なのだから。
預言者*よ、捕虜の内、あなた方の手許にある者に、(こう)言ってやるがいい。「もしアッラー*が、あなた方の心の内に善きものがあることをご存知ならば、かれは、あなた方から奪われたものよりも善きものをあなた方にお授けになり¹、あなた方をお赦しになろう」。アッラー*は赦し深いお方、慈愛深い*お方。
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1 「善きもの」とはイスラーム*のことで、「奪われたもの」とは身代金のことであると言われる。一説にこのアーヤ*はバドルの戦い*で捕虜となった、預言者*の叔父アル=アッバースらに関して下った。アル=アッバースはイスラーム*を受け入れた後、支払った身代金の百倍にあたる財産を得た、とされる(アッ=タバリー5:3901-3902参照)。
そして(使徒*よ、)もし彼ら(解放した捕虜たち)があなたへの裏切りを望んでいるとしても(、それがあなたを害することはない)、以前¹にも彼らはアッラー*を裏切り、そしてかれは(あなたに)彼らを掌握させられたのだから。アッラー*は偉力ならびない*お方、英知あふれる*お方。
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1 つまりバドルの戦い*の時のこと(アル=バガウィー2:312参照)。
本当に信仰し、移住*し、自分たちの財産と生命によってアッラー*の道に奮闘した者たち(ムハージルーン*)と、(彼らを)住まわせ、援助した者たち(アンサール*)、それらの者たちは、お互いに盟友¹である。そして信仰しても移住*しなかった者たちは、彼らが移住*するまで、あなた方に彼らとの盟友関係などは一切ない。また、もし彼らが宗教においてあなた方に援助を求めて来たら、あなた方は彼らを援助しなければならない。但し、あなた方とその間に確約がある民に敵対(して彼らを援助)することは除かれるが。アッラー*はあなた方の行うことを、(全て)ご覧になるお方。
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1 この「盟友」は、相続に関することとも、支持と援助に関することとも言われる。前者の説の場合、その決まりは撤回された(アーヤ*の撤回については、雌牛章106の訳注を参照)と見なされる(アーヤ*75とその訳注を参照)。婦人章33とその訳注も参照。(アル=クルトゥビー8:56参照)。
また不信仰に陥った者*たちは、お互いに盟友である。(信仰者たちよ、)あなた方がそうしなければ、地上に試練と大きな腐敗*が生じてしまうであろう。¹
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1 つまり、信仰者どうしが助け合わなければ、イスラーム*において「試練」が生じ、イスラーム*を阻(はば)み、不信仰の基盤が強化されるという「腐敗」が現れる、ということ(ムヤッサル186頁参照)。
そして信仰し、移住*し、アッラー*の道に奮闘した者たち(ムハージルーン*)と、(彼らを)住まわせ、援助した者たち(アンサール*)、それらの者たちこそは、真の信仰者である。彼らにこそ、お赦しと、貴い糧¹があるのだ。
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1 「貴い糧」とは、天国おける褒美のこと(前掲書、同頁参照)。
また(ムハージルーン*とアンサール*の)後に信仰し、移住*し、あなた方と共にアッラー*の道に奮闘した者たち、それらの者たちは、(信仰者たちよ、)あなた方の同胞である。また近親関係にある者たちは(遺産相続に関し)、アッラー*の定めにおいて互いに優先される¹。本当にアッラー*は、全てをご存知のお方なのだ。
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1 マディーナ*時代の初期においては、信仰上の兄弟という契りを交わした信仰者どうしが、親族関係を超えて遺産を相続し合った(イブン・カスィール4:95参照)。しかしこのアーヤ*によって、そのような遺産相続は撤回された(前掲書4:99-100参照)。婦人章33とその訳注、部族連合章6も参照。また、アーヤ*の撤回については、雌牛章106の訳注を参照。