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アリフ・ラーム・ミーム・サード¹。
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1 これらの文字については頻出名・用語解説の「クルアーンの冒頭に現れる文字群*」を参照。
(使徒*よ、このクルアーン*は、)あなたに下された啓典。ならば、それで警告を告げ、信仰者たちへの教訓とするにあたって、あなたの胸の内にいかなる煩悶¹があってもならない。
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1 啓示に疑念を抱くことなく、それでもって人々にアッラー*の御言葉を伝達するという偉大な義務を果たすこと、及びその過程で遭遇する様々な苦難において、挫(くじ)けたりしてはならない、ということ(アッ=タバリー5:3435-3436参照)。
(人々よ、)あなた方の主*から、あなた方に下されたものに従うのだ。そして、かれをよそにして盟友たちに従うのではない¹。あなた方が教訓を得ることの、少ないことよ。
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1 つまり人間であれジン*であれ、アッラー*以外の何かを自分の盟友とし、偶像(ぐうぞう)崇拝や私欲や宗教における改変に走ってはならない、ということ(アル=カースィミー7:2610参照)。
一体われら*は、どれだけ多くの(不信仰者*の)町を滅ぼしてきたことか。そしてわれら*の猛威¹は(夜)眠っている時でも、あるいは彼らが昼寝している間でも、彼らのもとに到来したのだ。
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1 この「猛威」とは、懲罰のこと(ムヤッサル151頁参照)。
それでわれら*の猛威が彼らのもとに到来した時、彼らの言い分は、「本当に私たちは、不正*者でした」と言うだけのものだった。
われら*は必ずや、(使徒*らが)遣わされた者たちに尋ねよう。また必ずや、使徒*たちにも尋ねよう¹。
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1 使徒*が遣わされた人々には、彼らが自分たちの使徒*に、いかなる返答をしたかをお尋ねになる。また使徒*たちには、彼らがアッラー*の教えの伝達を果たし、そして人々がそれに対してどのような返答をしたかを、お尋ねになる(前掲書、同頁参照)。アーヤ*8、食卓章109の訳注も参照。
それから必ずや知識を持って、(彼らが現世で行ったことについて、)彼らに語り聞かせよう。そして、われらはもとより(彼らに対する)不在者であったわけではない¹。
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1 かれは全てをご覧(らん)になるお方であり、かれから隠れられるものは何もない(イブン・カスィール3:389参照)。
(復活の)その日*、(行いの)重みは真実である¹。誰でも、自分の(善行の)秤が重かった者、それらの者たちこそは成功者である。¹
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1 そもそもアッラー*は人々の行いを含め、全ての出来事について、それが存在する前からご存知であり、それが存在した後にお忘れになることもない。アッラー*は「守られし碑板*」も「現世での行いの帳簿」も、そもそも必要とはされないが、ただそれは創造物に対して議論の余地がなくなるようにするためなのである。アッラー*が復活の日*にあえて秤を提示されるのも同様で、それは天国の徒であれ、地獄の徒であれ、創造物に対する証明とするためのものに過ぎない(アッ=タバリー5:3445参照)。
そして誰でも、その(善行の)秤が軽かった者、それらの者たちは、われら*の御徴に不正*を働いた¹ゆえに、自らを損ねた者たちである。
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1 つまりアッラー*の御徴の否定と、それに対する不服従において、度を越していたということ(ムヤッサル151頁参照)。
(人々よ、)われら*は確かに、あなた方に地上で力を授け、そこにあなた方のための生活の糧を設えた。あなた方が感謝することの、少ないことよ。
また、われら*は確かにあなた方(の父祖アーダム*)を創造し、それから形作り、それから天使*たちに(こう)言った。「アーダム*にサジダ*¹せよ」。すると、彼らは(全員)サジダ*した。但しイブリース*は別で、彼はサジダ*する者たちの一人ではなかった。²
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1 ここでの「サジダ*」に関しては、雌牛章34の訳注を参照。 2 この出来事の詳細に関しては、雌牛章34-39、アル=ヒジュル章28-42、夜の旅章61-65、ター・ハー章116-123、サード章71-83も参照。
かれ(アッラー*)は、仰せられた。「われがあなたに命じた時、あなたがサジダ*するのを妨げたものは何なのか?」彼(イブリース*)は申し上げた。「私は彼(アーダム*)よりも優れています。あなたは私を火からお創りになり、彼のことは泥土¹からお創りになったのですから」。²
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1 アーダム*が土から段階を経(へ)て創られたことについては、アル=ヒジュル章26の訳注を参照。 2 イブリース*はこの件に関し、いくつもの間違いを犯した。つまり「アッラー*のご命令に逆らったこと」「自惚(うぬぼ)れと高慢さ」「アッラー*に対して知りもしないことを言うこと」「火が土よりも優れているという間違った推測、あるいは嘘」といったことである(アッ=サァディー284頁参照)。
かれは仰せられた。「ならば、そこ¹から落ちてゆくがいい。あなたがそこで高慢になる筋合いは、ないのだから。そして出て行け。本当にあなたは、卑しい者の類いなのだ」。
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1 楽園のこと。雌牛章35の訳注も参照。
彼は申し上げた。「彼らが蘇らされる日まで、私に猶予をお授けください」。
かれは仰せられた。「実にあなたは、(角笛に最初に吹き込まれる日¹まで)猶予を与えられる者の一人である」。²
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1 この「角笛」については、家畜章73とその訳注を参照。 2 イブリース*の申し出が受け入れられたのは、しもべたちへの試練(王権章2の同語についての訳注も参照)と、イブリース*の誘惑に打ち勝つことで、彼らが褒美を得ることが出来るようにするため(アル=バイダーウィー3:9参照)。
彼は申し上げた。「ならば、あなたが私を誤らせられたのですから、私は必ずやあなたのまっすぐな道(イスラーム*)において(誤らせるべく)、彼らに立ちはだかりましょう。
それから私は必ずや、彼らの前から、後ろから、右から、左から、彼らに到来しましょう¹。そしてあなたは彼らの大半を、感謝する者として見出さないのです」。
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1 これはつまり、真理から阻(はば)んだり、嘘を勧(すす)めたり、現世を目映(まばゆ)く見せたり、来世に疑念を抱(いだ)かせたりすることなどを意味するという(ムヤッサル152頁参照)。
かれは仰せられた。「叱責され、追放されつつ、そこから出て行くのだ。実に彼らの内であなたに従った者があれば、われはきっと(彼らを含めた)あなた方全員で、地獄を満たすであろう」。
「アーダム*よ、あなたとあなたの妻は楽園¹に住み、どこでも望む所から食べるがよい。そして、この木²には近づいて(その実を食べて)はならない。そうすればあなた方二人は、不正*者の類いになってしまうから」。
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1 アーダム*とその妻ハウワーゥ*が住んでいた楽園に関しては、雌牛章35の訳注を参照。 2 この「木」については、雌牛章35の訳注を参照。
そしてシャイターン*は、彼ら二人の隠されていた恥部(アウラ*)を彼ら自身に露わにすべく、二人を唆して言った。「あなた方の主*があなた方にこの木を禁じられたのは、あなた方が天使*になるか、あるいは永遠なる(生を得る)者の仲間とならないようにするために外ならない」。
そして彼は、二人に向かって(こう)誓った。「本当に私はまさしく、あなた方二人に対する忠告者である」。
こうして彼は、偽りによって二人を陥れた。そして二人が木(の実)を味わった時、その恥部(アウラ*)は彼ら自身に露わになり、彼らは楽園の葉を自分自身(の恥部)に当て始めた¹。そして彼らの主*は二人に呼びかけられ、(こう)仰せられた。「われはあの木を、あなた方に禁じたのではなかったか?そしてあなた方に、本当にシャイターン*はあなた方にとっての紛れもない敵である、と言わなかったのか?」
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1 恥部を露わにすることは重大なことであり、現在に至るまでそれは、人間の性質が不快に感じ、理性が醜(みにく)いと見なすものである(ムヤッサル152頁参照)。
二人は申し上げた。「我らが主*よ、私たちは自分自身に不正*を犯しました。そしてあなたが私たちをお赦しになり、ご慈悲をかけて下さらなければ、私たちは間違いなく損失者の類いとなってしまいます」。¹
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1 預言者*・使徒*の無謬(むびゅう)性については、雌牛章36の訳注を参照。
かれは仰せられた。「あなた方は(シャイターン*と)互いに敵となって、(楽園から)落ちて行け。そしてあなた方には地上で暫しの¹住まいと楽しみがある」。
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1 この「暫し」については、雌牛章36の訳注を参照。
かれは仰せられた。「あなた方はそこで生き、そこで死に、そしてそこから(復活の日*、蘇らされるために)出されるのだ」。
アーダム*の子ら(人類)よ、われら*はあなた方に、自分たちの恥部(アウラ*)を覆う衣服と、着飾るためのものを、確かに下した¹。そして敬虔さ*の衣こそが、より善いのである。それは彼らが教訓を得るようにとの、アッラー*の御徴²の一つなのだ。
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1 一説に、衣服の原料となる植物は、天から「下される」雨水によって生育することから、衣服が「下された」と表現されている(アル=バガウィー2:185参照)。 2 アッラー*の主*性、唯一性*、ご恩寵(おんちょう)、ご慈悲を示す証拠のこと(ムヤッサル153頁参照)。
アーダム*の子らよ、シャイターン*が(罪への誘惑によって)、あなた方を試練にかけるようなことがあっては、決してならない。彼があなた方の先祖二人を、その恥部(アウラ*)を彼ら自身に露わにすべく、その衣服を彼らから剥ぎ取り、楽園から追い出してしまったように。まさに彼とその徒党は、あなた方が彼らを見ることの出来ない所から、あなた方を見ているのだぞ。本当にわれら*はシャイターン*たちを、信仰しない者たちの盟友としたのである。
また彼ら(信仰しない者たち)は、自分たちが醜行¹を行った時には、(こう)言った。「私たちは、私たちのご先祖様が、このようにするのを見出したのだ。アッラー*が、それを私たちにご命じになったのである」。(使徒*よ、)言ってやるがいい。「本当にアッラー*は、醜行をご命じにはならない。一体あなた方はアッラー*に対して、自分たちが知りもしないことを言うのか?」
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1 「醜行」については、蜜蜂章90の訳注を参照。そしてその一つが、裸でタワーフ*を行うこと(アッ=サァディー286頁参照)。イブン・カスィール*によれば、クライシュ族*以外の当時のアラブ人には、いかなる正当な宗教的根拠もない、このような習慣があったのだという(3:402参照)。
(使徒*よ、)言うがよい。「我が主*は、公正をご命じになった。そしてあなた方は、いかなるマスジド*でも自分たちの顔を正し¹、かれに祈れ。かれだけに真摯に崇拝*行為を捧げつつ²。かれがあなた方(の創造)を始め給うたように、あなた方は(死後の復活へと)戻るのだから」。
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1 「マスジド*で顔を正す」とは、アッラー*へと向かい、崇拝*行為、特に礼拝を、その外面・内面いずれにおいても、完全な形で行うよう努力すること(アッ=サァディー286頁参照)。雌牛章112と、その訳注も参照。 2 アッラー*だけに「真摯に崇拝*行為を捧げる」ことについては、婦人章146の訳注を参照。
(アッラー*は人々を二つの集団にお分けになった。)かれがお導きになった集団と、迷妄が確定した集団。本当に彼らは、アッラー*をよそにシャイターン*らを盟友とし、自分たちが導かれた者だと思い込んでいる。
アーダム*の子らよ、いかなるマスジド*でも、自分たちの飾りを(身に)着けよ¹。また、飲みかつ食べるのだ。そして度を越してはいけない²。本当にかれは、度を越す者をお好きにはならないのだから。
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1 礼拝をする時には、アウラ*を覆う衣服、清潔さ、心身の清めなどによる、イスラーム*法に則(のっと)った形で「身を飾る」(ムヤッサル154頁参照)。このアーヤ*は、当時のアラブ人が裸でタワーフ*することに関し、下ったとされる(イブン・カスィール3:405参照)。アーヤ*28の訳注も参照。 2 食べ物などを食べ過ぎたり、飲食・衣服などにおいて浪費したり、合法・非合法の決まりを破ったりしてはならない、ということ(アッ=サァディー287頁参照)。
(使徒*よ、シルク*の徒に)言ってやるがいい。「かれ(アッラー*)がその僕たちのために出し給うたアッラー*の装飾品と、糧の内の善きものを禁じたのは、一体誰なのか?」言うのだ。「それらは現世の生活において、信仰する者たち(と、それ以外の者たち)のためのものであり、復活の日*には(信仰者たちの)専有物となる」。同様にわれらは、知識ある民に御徴を詳らかにするのである。
(使徒*よ、)言ってやるがいい。「我が主*は、(次のことを)まさに禁じられた。醜行の内の露わなものと、秘められたもの。罪悪。不当な侵害¹。あなた方がアッラー*に対し、かれがそこにおいて²、いかなる根拠も下されてはいないものを並べ(て崇め)ること。あなた方がアッラー*に対し、自分たちが知りもしないことを語ること」。
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1 「醜行」「侵害」については、蜜蜂章90の訳注を参照「罪悪」は、アッラー*がその罰を約束されているような、全ての罪のこと(前掲書、同頁参照)。 2 つまり、アッラー*と並べて崇拝*することにおいて(ムヤッサル154頁参照)。
いかなる(不信仰な)共同体にも、(定められた)期限¹がある。そして彼らの期限が訪れれば、(彼らはそれを)一刻たりとも遅らせたり、早めたりすることはない」。
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1 この「期限」は、彼らに下る懲罰の時期のこと(ムヤッサル154頁参照)。
アーダム*の子らよ、もしもあなた方の内から、あなた方にわが御徴(アーヤ*)を読み聞かせる使徒*たちが、あなた方のもとに到来した時、誰であれ(アッラー*を)畏れ*、(行いを)正した者、その者たちには怖れもなければ、悲しむこともない¹。
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1 「彼らには怖れもなければ、悲しむこともない」については、雌牛章38の訳注を参照。
そしてわれら*の御徴を嘘呼ばわりし、それに対して奢り高ぶる者たち、それらの者たちは業火の住人である。彼らはそこに、永遠に留まるのだ。
ならば一体、アッラー*に対して嘘を捏造したり、その御徴を嘘呼ばわりしたりする者よりも、ひどい不正*を働く者があろうか?それらの者たちには(現世で)、書¹(に記されてあるもの)からの、自分たちの分け前²が訪れよう。やがて、われら*の使いたち³が彼ら(不正*者たちの魂)を召すべく、彼らのもとを訪れると、彼ら(使いたち)は(、こう)言う。「あなた方が、アッラー*を差しおいて祈っていたものはどこか?」彼らは言う。「(それらは)私たちのもとから、喪失してしまいました」。彼らは、自分たちが不信仰者*だったことを、自らに対して証言することになるのである。
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1 この「書」は、守られし碑板*のこととされる(前掲書、同頁参照)。 2 この「分け前」の解釈には、「善悪の行為」「行いと糧と寿命」などといった説がある(イブン・カスィール3:410-411参照)。 3 死期が訪れた人間の魂を引き抜く、死の天使*のこと(アッ=サァディー288頁参照)。家畜章93とその訳注も参照。
かれ(アッラー*)は仰せられる。「あなた方以前に滅びたジン*と人間からなる(、不信仰だった)共同体と共に、業火の中に入れ」。ある共同体が(地獄に)入って来るたび、それはその(先代である)仲間を呪う¹。やがて彼らがそこに勢揃いすると、彼らの内の後代の者たちは、その先代に関して(アッラー*に訴えつつ、こう)言う。「我らが主*よ、これらの者たちが私たちを(真理から)迷わせたのです。ゆえに彼らには、業火による倍の懲罰をお与え下さい」。かれは仰せられる。「(あなた方と彼ら)全員に、倍のものがある。しかしあなた方は、分かっていないのだ²」。
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1 先代の不信仰な共同体に従ったことで、自らも不信仰となった後代の共同体が、それゆえに先代の者たちを呪う、ということ(ムヤッサル155頁参照)。 2 アッラー*があなた方にご用意された地獄の懲罰が、いかなるものかを分かっていない、ということ(前掲書、同頁参照)。
そして、彼らの内の先代はその後代の者たちに、(こう)言う。「ならば、あなた方が(懲罰において、)私たちよりもましというわけではない」。(アッラー*は、彼ら全員に仰せられる。)「では、あなた方が稼いでいたもの(罪)ゆえに、懲罰を味わうがよい」。¹
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1 同様の情景の描写として、雌牛章166-167、イブラーヒーム*章21-22、識別章17-19、物語章63、部族連合章67-68、サバア章31-33、40-41も参照。
本当にわれら*の御徴¹を嘘呼ばわりし、それに対して奢り高ぶる者たち、彼らには天の門が開き放たれることはない²。そして彼らは、ラクダが針の穴を通るまで、天国に入ることはないのだ。同様にわれら*は、罪悪者たちに報いるのである。
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1 この「御徴」とは、アッラーの唯一性*を示す様々な証拠のこと(ムヤッサル155頁参照)。 2 生前においてはその行いが、死後にはその魂そのものが天に受け入れられることがない、ということ(前掲書、同頁参照)。
彼らには地獄の寝床があり、その頭上からは(炎の)覆いがある。そのようにわれら*は、不正*者たちに報いるのだ。
信仰し、正しい行い*を行う者たちーーわれら*は人に、その能力以上のものを負わせないーー、それらの者たちは天国の民となる。彼らはそこに永遠に留まるのだ。
また、われら*は彼らの胸中にある、憎しみの念を一掃する¹。彼らの下からは河川が流れており、彼らは(こう)言うのだ。「私たちをここへと導いて下さったアッラー*に、称賛*あれ。私たちは導かれるべくもなかったのだ、もしアッラー*が私たちをお導き下さらなかったならば。我らが主*の使徒*たちは真理と共に、確かに到来したのである」。そして、彼らには呼びかけられる。「その天国は、あなた方が行っていたことゆえ、あなた方に引き継がされた²のだ」。
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1 信仰者たちは復活の日*、天国と地獄の間のアーチで止められ、現世でのお互いに対する不正の清算をつけさせられる。そして正され、清い状態になった後に、初めて天国に入ることが許される(アル=ブハーリー6535参照)。 2 天国を「引き継がされた」という表現については、マルヤム*章63の訳注を参照。
天国の民は、地獄の民に(こう)呼びかける。「私たちは確かに、我らが主*が私たちに約束されたものが真実だと見出した。それであなた方は、あなた方の主*があなた方に約束されたものが真実だと見出したのか?」彼ら(地獄の民)は言う。「えぇ(、見出しましたとも)」。そして呼びかける。「不正*者たちにアッラー*の呪い¹あれ」。
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1 「アッラー*の呪い」については、雌牛章88の訳注を参照。
(彼らは、自分たちと人々を)アッラー*の道から阻み、それ(その道)を捻じ曲げようとする者たち。そして彼らは、来世を否定する者たちなのである。
(天国の民と地獄の民の)両者の間には、障壁¹がある。そして高壁の上には、(両者)いずれのことも、その目印によって知る者たちがいる²。彼らは天国の民に、(こう)呼びかける。「あなた方に平安を³」。彼ら(高壁の民)は、(自分たちも天国に入ることを)所望しつつも、(まだ)そこに入れずにいる。
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1 この障壁が、すなわち高壁のことである、とされる(ムヤッサル156頁参照)。一説にこれは、鉄章13に登場する壁のこと(アッ=タバリー5:3517参照)。 2 この「高壁の民」は、現世での善行と悪行が同等であったため、天国・地獄のいずれに入ることも許されてはいない者たちのこととされる(イブン・カスィール3:418-420参照)。尚、天国の民の「目印」とは、顔の美しさと白さ(イムラーン家章107参照)で、地獄の民の「目印」は顔の醜(みにく)さと黒さ(イムラーン家章106参照)である、と言われる(アル=クルトゥビー7:212参照)。 3 「あなた方に平安を」については、雷鳴章24の訳注を参照。
また、彼ら(高壁の民)の目が地獄の民の方に向けられると、彼らは(こう)言う。「我らが主*よ、私たちを不正*者である民と一緒にはしないで下さい!」
また高壁の民は、その目印によって知る者たち¹に呼びかけ、(こう)言う。「あなた方が(現世で)集めていたものも、あなた方が思い上がっていたこと²も、(この日、)自分自身の役に立たなかったではないか?
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1 不信仰者*の内でも、その指導者的な地位にあった者たち(ムヤッサル156頁参照)。 2 「集めていたもの」とは、財産や仲間など。「思い上がっていたこと」とは、アッラー*への信仰と、真理を受容することに対する思い上がりのこと(前掲書、同頁参照)。
一体これらの者たち¹は、あなた方が『アッラー*が彼らを、そのご慈悲に与らせること²などではない』と、誓っていた者たちではないのか?」(アッラー*は仰せられる。)「(高壁の民よ、)天国に入るがよい。あなた方には怖れもなければ、悲しむこともない³」。
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1 「これらの者たち」とは、現世において弱く、貧しかった信仰者たちのことである、とされる(前掲書、同頁参照)。家畜章53とその訳注も参照。 2 「ご慈悲に与からせるかこと」とは、天国に入れて下さること(前掲書、同頁参照)。 3 「怖れもなければ、悲しむこともない」については、雌牛章38の訳注を参照。
地獄の民は、天国の民に呼びかける。「私たちの上に、水をいくらか注いでくれ!あるいは、アッラー*があなた方に授けて下さった糧の内から(、何かを)!」彼ら(天国の民)は言う。「実にアッラー*は不信仰者*たちに、それらを禁じられたのだ。
(彼らは、)自分たちの宗教を戯れごとや遊興とし、現世の生活に欺かれた者たち」。今日われら*は彼らが自分たちの(復活の)この日の拝謁を忘れ、われら*の御徴を否定していたように、彼らのことを忘れてやろう¹。
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1 彼らが、復活の日*の拝謁(はいえつ)を「忘れた」というのは、彼らがそのために現世で努力することを放棄(ほうき)したことを、そしてアッラー*が「彼らのことを忘れる」とは、彼らを地獄に置き去りにすることを意味する、と言われる(前掲書、同頁参照)。
われら*は彼ら(不信仰者)に、われら*が知識と共に明らかにした、信仰する民への導き、慈悲である啓典(クルアーン*)を、確かにもたらしたのだ。
一体彼らは、その結末¹を待っているだけなのか?その結末がやって来る(復活の)日*、以前それを忘れていた者たち²は、(こう)言うのだ。「我らが主*の使徒*たちは、真理と共に確かに到来しました。では、私たちに誰か(アッラー*の御許での)執り成し手がおり、それで彼らは私たちに執り成してくれるでしょうか?³あるいは私たちは(現世に)戻されて、私たちが行っていたものとは違う(善い)行いをする(ことは、出来ます)でしょうか?⁴」彼らは確かに、自分自身を損ねたのである。そして彼らがでっち上げていたもの⁵は、彼らの前から消え失せてしまった。
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1 クルアーン*の中で彼ら不信仰者*に警告されていた、懲罰のこと(ムヤッサル157頁参照)。 2 現世でクルアーン*を放棄(ほうき)し、信じなかった者たちのこと(前掲書、同頁参照)。 3 復活の日*の「執り成し」については、雌牛章48、マルヤム*章87、ター・ハー章109とその訳注を参照。 4 いざ復活の日*(あるいは死)が到来すると、彼らは現世での猶予を求めたり、自分たちを現世に返してくれることを頼んだりする。だが、もちろんそれは叶わない。家畜章27-28、イブラーヒーム*章44、信仰者たち章99-100、アッ=サジダ*章12、創成者*章37、赦し深いお方章11-12、相談章44、偽信者たち章10-11も参照。 5 現世で、彼らがアッラー*と並べて崇拝*していたもののこと(ムヤッサル157頁参照)。
本当にあなた方の主*は、諸天の大地を六日間で創造され¹、それから御座に上がられた²アッラー*である。かれは夜を昼に覆わせられ(、昼を夜にお入れにな)る³。それは(互いに)相手をせわしなく求める⁴。また(かれは)太陽も月も星々も、そのご命令によって(かれがお望みの者に)奉仕させられるもの(として、お創りになった)。かれにこそ、(全ての)創造とご命令は属するのではないか?全創造物の主*アッラー*は、祝福にあふれたお方よ。
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1 「六日間での天地創造」については、詳細にされた章9-12とその訳注も参照。 2 「御座(アルシュ)」はそもそもアラビア語で、寝台の意。アッラー*の御座は最も偉大な被造物である、と言われる。「御座にお上がりになる」という表現に関しては、それを「いかに?」と問わず、その行為を他の被造物の行為と同様のものと見なすことなく、また否定せずにそのまま受け入れるのが、先代の模範(もはん)的なムスリム*たちの主法(アル=バガウィー2:197、イブン・カスィール3:426-427参照)。 3 イムラーン家章27の、同様のくだりに関する訳注を参照。
(信仰者よ、)あなた方の主*におそれ畏まりつつ、密かに祈るのだ。本当にかれは、度を超す者たちをお好きではないのだから。¹
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1 全ての物事において、「度を越すこと」は禁じられる。アッラー*に対して不適切なことを祈ったり、祈願を誇張したり、その声を上げ過ぎたりすることも、その内の一つ(アッ=サアディ291頁参照)。
また地上で、(使徒*が遣わされて)そこが正された後、腐敗*働いてはならない。そして(アッラー*の懲罰を)怖れ、(その褒美を)望みつつ、かれに祈るのだ。本当にアッラー*のご慈悲は、善を尽くす者¹たちの間近にあるのだから。
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1 「善を尽くす者」については、蜜蜂章128の訳注を参照。
かれはそのご慈悲(雨)の前触れに、吉報を告げる風を送られるお方。やがてそれは(雨を湛えた)重厚な雲を運び、われら*はそれを死んだ大地¹へと導く。そして、われら*はそれで(雨)水を降らせ、それによってあらゆる果実を生まれ出させる。同様にわれら*は、あなた方が教訓を得るようにと、死者を(蘇らせて墓から)引き出すのである。
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1 枯れ果てて植物の育たない土地のこと(ムヤッサル158頁参照)。
善い土地は、その主*のお許しにより、その(善い)植物が生える。そして悪性のもの(、そこから)は粗悪なものしか生えない¹。同様にわれらは感謝する民に対し、御徴を多彩に示すのだ。
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1 信仰者の心はクルアーン*が沁(し)み込めば、それを信仰し、そこに信仰心が定着する。だが不信仰者*の心はクルアーン*が入って来ても、そのご利益に与ることなく、信仰が定着することもない。そしてそこに残存するのは、無益なものだけなのである(アッ=タバリー5:3543参照)。また同様の譬(たと)えとして、雷鳴章17も参照。
われら*は確かに、ヌーフ*をその民に遣わした¹。彼は言った。「我が民よ、アッラー*(のみ)を崇拝*するのだ。あなた方にはかれの外に、崇拝*すべきものなどない。本当に私は、あなた方に対し、偉大な(復活の)日の懲罰(が襲いかかるの)を怖れているのだ」。
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1 ヌーフ*とその民の間の出来事については、フード*章25-48、信仰者たち章23-30、詩人たち章105-122、整列者章75-82、月章9-17、ヌーフ*章なども参照。
彼の民の内の、有力者たちは言った。「(ヌーフ*よ、)本当に私たちはまさに、あなたが紛れもない迷いの中にあると思う」。
彼(ヌーフ*)は言った。「我が民よ、私は迷ってなどいない。だが私は、全創造物の主*からの使徒*なのだ。
私は我が主*のお言伝をあなた方に伝え、あなた方に忠言する。そして私はアッラー*によって、あなた方が知らないことを知っているのだ。
一体あなた方は、自分たちの主*からの教訓が、自分たちの内の一人の男に到来したことを、驚いているのか?(それは)彼があなた方に警告し、あなた方が畏れ*、そしてあなた方が慈しまれるように、とのためなのだ」。
そして彼らは彼(ヌーフ*)を嘘つき呼ばわりし、われら*は彼と、彼と共にあった者たちを船で救い、われら*の御徴を嘘呼ばわりし、した者たちを溺れさせた。本当に彼らは、盲目¹の民だったのだから。
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1 「盲目」については、雌牛章7、家畜章50、フード*章20,24、巡礼*章46とその訳注も参照。
またアード*には、その同胞フード*を(遣わした)¹。彼は言った。「我が民よ、アッラー*(のみ)を崇拝*するのだ。あなた方にはかれの外に、崇拝*すべきものなどない。一体、あなた方は(アッラー*を)畏れ*ないのか?」
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1 アード*とその民に起こったことについては、フード*章50-60、詩人たち章123-140、詳細にされた章13-16、砂丘章21-26、月章18-22、真実章1-8、暁章6-14なども参照。
彼の民の内の、不信仰だった有力者たちは言った。「(フード*よ、)本当に私たちは、まさにあなたが愚かさの中にあると思う。そして本当に私たちは、あなたがまさしく嘘つきの類いだと思うのだ」。
彼(フード)は言った。「我が民よ、私は愚か者ではない。だが私は、全創造物の主*からの使徒*なのだ。
私は我が主*のお言伝をあなた方に伝える。私は、あなた方への誠実なる忠告者なのだ。
一体あなた方は、あなた方の主*からの教訓が、あなた方に(アッラー*の懲罰を)警告すべく、自分たちの内の一人の男に到来したことを驚いているのか?かれ(アッラー*)があなた方をヌーフ*の民の後の継承者とされ、あなた方の肉体に強大さを上乗せされたことを、思い起こすがよい。ならば、あなた方が成功するよう、アッラー*の恩徳を思い出すのだ」。
彼らは言った。「(フード*よ、)あなたは、私たちにアッラー*だけを崇拝*させ、私たちのご先祖様が崇めていたものを捨て去らせるためにやって来たのか?ならば、あなたが私たちに約束するもの¹を、私たちにもたらしてみよ。もしあなたが、正直者の類いであるというならば(、だが)」。
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1懲罰のこと(ムヤッサル159頁参照)。
彼(フード*)は言った。「あなた方の主*からの穢れ¹とお怒りは、あなた方に対して既に下っている。一体あなた方は、自分たちと自分たちの先祖が名付けた名前²において、私と議論すると言うのか?アッラー*はそれら(の崇拝*)に、いかなる(正当な)根拠も下されなかったのだ。ならば、あなた方は(自分たちに懲罰が下るのを)待つがよい。実に私も、あなた方と共に(それを)待つ者の一人となるから」。
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1 この「穢れ」とは、懲罰のこととされる(前掲書、同頁参照)。 2 いかなる神性も有していないのに、彼らが神と名付けていた偶像のこと(アッ=サァディー294頁参照)。
こうしてわれら*は、われら*の御許からの慈悲により、彼と彼と共にあった者たちを救い、われら*の御徴を嘘とし、信仰者ではなかった者たちを一人残さず根こそぎにした。
またサムード*には、その同胞サーリフ*を(遣わした)¹。彼は言った。「我が民よ、アッラー*(のみ)を崇拝*するのだ。あなた方にはかれの外に、崇拝*すべきものなどない。あなた方の主*からの明証²は、確かにあなた方のもとにやって来たのだ。これはあなた方への御徴としての、アッラー*の雌ラクダ³である。ゆえにそれを放っておき、アッラー*の地で食べるがままにさせよ。そして、それに害を及ぼすことで、自分たちに痛烈な懲罰を襲いかからせてはならない。⁴
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1 サーリフ*とその民の間の出来事については、フード*章60-68、アル=ヒジュル章80-84、詩人たち章141-159、蟻章45-53、詳細にされた章17-18、月章23-32、なども参照。 2 「明証」とは、サーリフ*が伝達することの正しさを証明するもののこと(ムヤッサル159頁参照)。 3 「アッラー*の雌ラクダ」という表現については、アル=ヒジュル章29の「わが魂」に関する訳注を参照。 4 サムード*の民はサーリフ*に対し、彼が預言者*であることの証明として、岩山から子を孕(はら)んだ巨大な雌ラクダを出すよう要求した。サーリフ*は民が信仰するという誓約(せいやく)をさせた上で、その奇跡を行ったが、彼らは信じなかった。彼は人々と雌ラクダが、一日ごとに交代で水を飲むことを命じる。詩人たち章155、月章28も参照(イブン・カスィール3:440-441参照)。
また、かれ(アッラー*)があなた方をアード*の後の継承者とされ、あなた方をその地に住まわせたことを思い起こすのだ。あなた方はその平地を城郭とし、山をくりぬいて住居としている。ならば、アッラー*の恩徳を思い出すのだ。腐敗*を働く者となって、地上で退廃を広めてはならない」。
彼の民の内の高慢だった有力者たちは、抑圧された者たちである。彼らの内の信仰した者に言った。「一体あなた方は、サーリフ*がその主*から遣わされた者だと(実際に)知っているのか?」彼ら(信仰者たち)は言った。「私たちこそは、彼が携えて遣わされたものへの、信仰者なのです」。
高慢だった者たちは言った。「私たちこそは、あなた方が信じたものに対する否定者である」。
こうして彼らは雌ラクダの腱を切り¹、自分たちの主*のご命令に反抗して²、(こう)言った。「サーリフ*よ、あなたが私たちに約束するもの(懲罰)を、もたらしてみよ。もしあなたが、使徒*の一人であるならば(、だが)」。
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1 「腱を切った」とは、つまり屠(ほふ)ることの間接的表現。ラクダを屠(ほふ)る時には、まず足の腱を切ってからそうしたことによる(アル=バガウィー2:207参照)。 2 雌ラクダが水を飲む日、人々はその乳を心行くまで飲むことが出来た。しかし彼らの家畜が、餌を求めて自由に往来する巨大な雌ラクダを怖がるのと、彼ら自身が水を毎日占有したいという望み、そしてサーリフ*への不信感などから、雌ラクダを殺すことで全員一致した。雌ラクダを屠ったのは一人であったが、こうした背景から「彼ら全員が屠った」という表現が用いられている(イブン・カスィール3:440-441参照)。
こうして彼らを激震が捕らえ¹、彼らは朝、その地で突っ伏して(死んで)いた。
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1 サムード*に下された懲罰の詳細については、頻出名・用語解説の「サムード*」の項を参照。
そして彼(サーリフ*)は彼らのもとを去り、(こう)言った¹。「我が民よ、私は確かにあなた方に我が主*のお言伝を伝え、あなた方に忠告したぞ。しかしあなた方は、忠告者たちを好まないのだ」。
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1 この言葉は、サムード*の民に懲罰が下る前のことであったという説と、後であったという説がある。アッ=タバリー*(5:3566参照)、アル=クルトゥビー*(7:242参照)らは、前者の説を採っている。
また、ルート*がその民に(こう)言った時のこと(を思い出すのだ)¹。「一体あなた方は、全創造物のいかなる者もあなた方以前には行わなかった醜行²に、手を染めるというのか?
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1 彼とその民の間に起こった話については、フード*章77-83、アル=ヒジュル章61-77、詩人たち章160-175、蟻章54-58、蜘蛛章28-35、月章33-40も参照。 2 「醜行」については、蜜蜂章90の訳注を参照。
本当にあなた方は女性を差しおいて、欲望ゆえに男性に赴こうとしている¹。いや、あなた方は度を越した民である」。
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1 つまり男色のこと(ムヤッサル160頁参照)。
彼の民の答えは、(このように)言うことだけであった。「彼らをあなた方の町¹から追放するのだ。本当に彼らは、潔癖ぶった人々なのだから」。
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1 この「町」については、フード*章81の訳注を参照。
こうしてわれら*は彼と、彼の妻を除くその家族を救った。彼女は残っ(て滅ぼされ)た者たちの一人となった。
そしてわれら*は、彼らの上に(石の)雨を降り注いだ。罪悪者たちの結末が、いかなるものだったかを見るがよい。
またマドゥヤン*には、その同胞シュアイブ*を(遣わした)¹。彼は言った。「我が民よ、アッラー*(のみ)を崇拝*するのだ。あなた方にはかれの外に、崇拝*すべきものなどない。あなた方の主*からの明証¹は、確かにあなた方のもとにやって来たのだ。ならば升と秤²を全うし、人々に対し、彼らのもの(権利)を損ねてはならない。また地上で、(使徒*が遣わされて)そこが正された後、腐敗*を働いてはならない。それが、あなた方にとってより善いのである。もし、あなた方が信仰者であるというならば(、だが)。
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1 シュアイブ*とその民の間に起こったことについては、フード*章84-95、詩人たち章176-191、蜘蛛章36-37も参照。 2 「明証」とは、シュアイブ*が伝達することの正しさを証明するもののこと(ムヤッサル161頁参照)。 3 「升と秤」については、家畜章152の訳注を参照。
また(人々を)威嚇し、アッラー*を信仰した者をかれの道から阻み、それを捻じ曲げようとして、道々に立ちはだかったりしてはならない。そしてあなた方が(以前)無勢だったのを、かれが増やして下さった時のことを思い出すのだ。そして腐敗を働く者たちの結末がいかなるものだったかを、見るがよい。
もしあなた方の内の一派が、私が携えて遣わされたものを信じ、別の一派が信じなかったとしても、アッラー*が私たちの間にご裁決¹を下されるまで忍耐*するのだ。かれは裁き手の内でも、最善のお方なのだから」。
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1 この「ご裁決」とは、彼らに警告されていた懲罰のこと(ムヤッサル161頁参照)。
彼の民の内、(信仰に対して)高慢だった有力者たちは言った。「シュアイブ*よ、私たちは必ずやあなたと、あなたと共に信仰した者たちを、私たちの町から追放しよう。さもなくば、あなた方は絶対に私たちの宗教に戻るのだ」。彼(シュアイブ*)は言った。「たとえ私たちが、(そのような宗教を)毛嫌いしていたとしてもか?
アッラー*が私たちをそこからお救い下さった後、あなた方の宗教に戻ったりしたら、私たちはアッラー*に対してまさに嘘を捏造したことになってしまう。そして我らが主*アッラー*が(そう)お望みにならない限り、私たちがそこに戻ることはあり得ない。我らが主*は(その)知識で、全てのものを網羅されているのだから。私たちは、アッラー*のみに全てを委ね*た、我らが主よ、私たちと我らが民の間を真理によってご裁決下さい。あなたは裁決者の中でも、最善のお方であられます」。
彼の民の内、不信仰であった有力者たちは言った。「もしもシュアイブ*に従ったら、そうすれば実にあなた方は、まさしく損失者となろう」。
そして彼らを激震が捕らえ¹、彼らは朝、その地で突っ伏して(死んで)いた。
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1 マドゥヤン*を滅ぼした懲罰については、詩人たち章189の訳注を参照。
シュアイブ*を嘘つき呼ばわりした者たちは、あたかもそこに暮らしてはいなかったかのようであった¹。シュアイブ*を嘘つき呼ばわりした者たちこそが、損失者だったのである。
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1 一人残らず全滅し、生活の痕跡もなくなったため(ムヤッサル162頁参照)。
そして彼(シュアイブ*)は彼らのもとを去り、(こう)言った。「我が民よ、私は確かにあなた方に我が主*のお言伝を伝え、あなた方に忠告したぞ。ならば、どうして不信仰な民のことで、私が心痛ませることがあろうか?」
われら*が預言者を町に遣わす時¹には決まって、その住民を困窮や災難で捕えたものだった。(それは)彼らが、おそれ畏まるようにするためだったのだ。
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1 預言者*の使命とは、アッラー*のみの崇拝*へと招き、シルク*を禁じることである(前掲書、同頁参照)。
それからわれら*は、逆境を順境にとって換えた。やがて彼らが(身体的にも経済的にも)潤い、「私たちのご先祖様たちにも確かに、災難と順境が訪れたものなのだ¹」などと言い出したところで、われら*は彼らが気付かぬ内に突然、彼らを懲罰で捕えたのだ。
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1 アッラー*は彼らがおそれ畏まり、悔悟するようにと、順境と逆境によって彼らに試練を与えられた。しかし彼らはそれに気づかず、それが単なる世の習いだと思い、いずれの試練にも成功しなかった(イブン・カスィール3:450参照)。同様のアーヤ*として、家畜章42-44も参照。
そして、もし町々の住民が信仰し畏れ*たなら、われら*は彼らに天と地からの祝福¹を解き放っただろう。しかし彼らは、(われら*の使徒*らを)嘘つき呼ばわりした。ゆえにわれら*は、彼らが稼いでいたもの²ゆえ、彼らを(罰で)捕らえたのだ。
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1 全ての善きもののこと。あるいは天からの雨と、作物などの大地の恵みのこと(アル=バイダーウィー3:43参照)。 2 不信仰や罪のこと(ムヤッサル163頁参照)。
一体、(不信仰な)町々の住民は、彼らが(夜)眠っている間に、われら*の猛威¹が彼らにやってこないと安心していたのか?
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1 この「猛威」とは、懲罰のこと(前掲書、同頁参照)。
また一体、(不信仰な)町々の住民は、彼らが朝ふざけている時に、われら*の猛威が彼らにやってこないと安心していたのか?
一体、彼らはアッラー*の策謀¹から安全だとでもいうのか?(彼らは間違えている、)というのもアッラー*の策謀から安全だと思い込むのは、損失者である民に外ならないのだから。
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1 「アッラー*の策謀」については、アーヤ*182-183、とその訳注を参照。また、雌牛章15の訳注も参照。
(過去の)その住民の(滅亡)後、その地を引き継ぐ者たちには、まだ明らかになっていないのか?もしわれら*が望めば(彼らの先人たちと同様)、その罪ゆえに彼らを(罰によって)掌握したのだということが?われら*はその心を閉じ、それで彼らは聞こえなくなってしまったのだ¹。
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1 雌牛章7の訳注も参照。
それらの町々、われら*はそれらの消息の内から、(使徒*よ、)あなたに語って聞かせる。彼らの使徒*たちは明証¹を携えて、彼らのもとに確かに到来したが、彼らは以前に(真理を)嘘呼ばわりしていたことゆえ、(使徒*たちのもたらしたものを)信じるべくもなかった²。同様に、アッラー*は不信仰者*たちの心を閉じてしまう³のである。
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1 この「明証」とは、使徒*たちの正直さを示す証拠のこと(ムヤッサル163頁参照)。 2 同様のアーヤ*として、家畜章110とその訳注も参照(アッ=サァディー298頁参照)。 3 雌牛章7の訳注も参照。
またわれら*は、彼らの大半に契約¹(の遵守)を見出さなかった。そして実にわれらは、彼らの大半がまさしく放逸な者たちであることを見出したのである。
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1 この「契約」については、雌牛章27の訳注を参照。(アッ=サァディー298頁参照)。また一説に、これはアーヤ*172に言及されていることを指す(イブン・カスィール3:453参照)。
それからわれら*は彼らの後、ムーサー*をわれら*の御徴と共に、フィルアウン*とその(配下の)有力者たちに遣わした。そして彼らは、それらに対して不正*を働いた¹。ならば腐敗*を働く者たちの結末がいかなるものだったかを、見てみるがよい。
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1 つまり、それらの御徴(奇跡)を否定し、信じなかった(ムヤッサル163頁参照)。
ムーサー*は言った。「フィルアウン*よ、私はまさに全創造物の主*からの使徒*です。
私はアッラー*に対し、真実以外は喋らないことが相応しいのです。私はあなた方に対して確かに、あなた方の主*からの明証を携えて来ました。ならばイスラーイールの子ら*を、私と共に自由にして下さい¹」。
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1 アッラー*の崇拝*のために自由にし(ムヤッサル164頁参照)、エジプトから聖なる地へと旅立たせること(アル=バガウィー2:218参照)。当時のイスラーイールの子ら*の抑圧(よくあつ)
彼(フィルアウン*)は言った。「もしあなたが御徴を携えて来たというのなら、それを披露してみよ。もし、あなたが本当のことを言っているというのならば(、だが)」。
それで彼(ムーサー*)は、自分の杖を投げた。すると、どうであろう、それは紛れもない一匹の大蛇となった。
また、彼が自分の手を(懐に入れてから)出すと、どうだろう、それは観衆(の前)に白くなって現れた。
フィルアウン*の民の内の有力者たちは、言った。「本当にこれは、まさに習熟した魔術師です。
彼はあなた方を、あなた方の土地から追い出そうとの魂胆なのです」。(フィルアウン*は、有力者たちに言った。)「あなた方は、私に何を命じるのか?」
彼ら(有力者たち)は、言った。「彼とその兄(ハールーン*)¹のことは後回しにされて、(ムーサー*に対抗するための魔術師たちを)召集する者たち(兵隊)を、町々にお遣わし下さい。
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1 ムーサー*は、フィルアウン*とその民をアッラー*の教えに招くにあたり、ハールーン*が彼の助っ人となることをアッラー*に求めた。詳しくは、ター・ハー章29-32、詩人たち章12-13、物語章34-35を参照。
(そうすれば、)彼らはあなたのもとに、あらゆる習熟した魔術師を参上させることでしょう」。¹
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1 フィルアウン*が魔術師たちを集結させ、ムーサー*と魔術師たちに決戦させたことについては、ユーヌス*章79-82、ター・ハー章57-73、詩人たち章34-51も参照。
そして、魔術師たちはフィルアウン*のもとに到着した。彼らは言った。「本当に私たちには、まさしくご褒美があります(でしょうか)。もし、私たちが(ムーサー*に)勝利したならば」。
彼(フィルアウン*)は言った。「あぁ。そして本当にあなた方は、きっと(我が)側近の仲間となろう」。
彼ら(魔術師たち)は、言った。「ムーサー*よ、あなたが(先に杖を)投げるか、それとも私たちが(杖を)投げる者となるか?」
彼(ムーサー*)は、言った。「あなた方が投げるがよい」。それで彼らが(縄や杖を)投げた時、彼らは人々の目に魔術をかけ¹、彼らを戦慄させた。そして彼らは大変な魔術を披露したのだ。
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1 この「魔術」の内容については、ター・ハー章66を参照。
われら*は、ムーサー*に啓示した。「あなたの杖を投げよ」。そして(彼がそうすると)、どうであろう、それは彼らがまやかすものを呑み込んでしまう。
こうして真実は明らかになり、彼らの行っていたことは無駄になった。
そして彼ら(フィルアウン*とその仲間たち)はそこで敗北を喫し、惨めに引き下がり、
魔術師たちは、サジダ*しつつ崩れ落ちた¹。
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1 アッラー*の御力の偉大さを目の当たりにして、かれに対しサジダ*した(ムヤッサル164頁参照)。魔術について最もよく心得ている彼らは、ムーサー*の行ったことがアッラー*による御徴であることを、最もよく理解したのだった(アッ=サァディー299頁参照)。
彼ら(魔術師たち)は、言った。「私たちは全創造物の主*を信じました。
フィルアウン*は(魔術師たちに)、言った。「私があなた方に許可を出す前に、あなた方は信じた(のか)。本当にこれはまさしく、あなた方が町で、その住民をそこから追放すべく企んだ策謀である。ならば、あなた方はきっと(自分たちが受ける罰を、)知ることになろう。
私は必ずやあなた方の手足を交互に切り落とし、それから全員磔にしてやる」。
彼ら(魔術師たち)は言った。「実に私たちは、我らが主*の御許へと戻り行く身なのです。
そしてあなたが私たちを咎めるのは、我らが主の御徴が到来した時、私たちがそれを信じたがゆえに外なりません。我らが主よ、私たちに(多くの)忍耐*をお注ぎ下さい。そして私たちを服従する者(ムスリム*)として、お召し下さい¹」。
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1 彼らは実際に、信仰者として殉教(じゅんきょう)することになった。彼らは昼始めには魔術師であったが、昼の終わりには殉教者となっていた、と言われている(アッ=タバリー5:3597-3598参照)。
フィルアウン*の民の内の有力者たちは、(フィルアウン*に)言った。「一体あなたは、ムーサー*とその民が(エジプトの)地で腐敗*を働き¹、あなたとあなたの神々²(の崇拝*)を放棄するままにされるのですか?」彼(フィルアウン*)は言った。「私たちは彼らの男児は殺しまくり、女児は生かしておこう。本当に私たちは、彼らの上に君臨する者なのである」。³
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1 彼らにとって、エジプトの宗教を、アッラー*だけを崇拝*する宗教へと変えることは「腐敗*」以外の何ものでもなかった(ムヤッサル165頁参照)。 2 「神々」に関しては、雌牛章133の訳注を参照。 3 フィルアウン*は、ムーサー*の誕生前にこれと同様のことをした(雌牛章49とその訳注を参照)が、その結果は彼の思惑とは逆のものとなった。そしてこの時も、イスラーイールの子ら*の抑圧という彼の意図とは裏腹に、彼とその軍勢の破滅という結果に終わる(イブン・カスィール3:460参照)。
ムーサー*はその民に言った。「アッラー*にご助力を乞い、忍耐*せよ。本当に大地は、アッラー*のものなのだから。かれはそれをその僕たちの内、かれがお望みの者に引き継がされるのである。そして(よき)結末は、敬虔*な者たちにあるのだ」。
彼ら(イスラーイールの子ら*)は、(ムーサー*に)言った。「私たちは、あなたが私たちのところに来る前も、あなたが私たちのところに来てからも、迫害されたのだ¹」。彼(ムーサー*)は言った。「あなた方の主*は恐らく、あなた方の敵を滅ぼし、あなた方を(エジプトの)地における継承者²とされ、あなた方がいかに行うかをご覧になるであろう³」。
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1 ムーサー*到来前と到来後にイスラーイールの子ら*が受けた「迫害」については、アーヤ*127とその訳注を参照(ムヤッサル165頁参照)。 2 「継承者」については、雌牛章30の訳注を参照。 3 彼らの土地を継承した後、彼らが感謝深い者たちとなるか、あるいは恩知らずの不信仰者*になるかをご覧になる、の意(ムヤッサル165頁参照)。
われら*はフィルアウン*の一族を、彼らが教訓を得るべく、旱魃と果実の不作(という試練)によって確かに捉えた。¹
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1 夜の旅章101とその訳注も参照。
そして彼らは、自分たちに順境が訪れた時には、「私たちにこそ、これは(当然の権利として)属するのである」と言い、もし災難が彼らを襲えば、ムーサー*と彼と共にある者を、不吉がった¹。本当に彼らの不吉のもとは、アッラー*の御許にある²のではないか。しかし彼らの大半は、分からないのだ。
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1「不吉に思う(タタイヤル)」は、「鳥(タイル)」という語 から派生した語。ジャーヒリーヤ*では鳥の動向で吉兆(きっちょう)を占う習慣があり、それが転じて、全ての「不吉に思われる物事」に対し、この表現が用いられるようになった(イブン・アーシュール9:65-66参照)。 2 あなた方に降りかかる災難は、全てアッラー*の定めとご裁決によるもの、あなた方の罪と不信仰によるものである、という意味(ムヤッサル166頁参照)。あるいは、順境でも逆境でも、あなた方に訪れる全てのものは、アッラー*からのものである、という意味(アル=バガウィー2:223参照)
彼らは言った。「私たちをそれで魔術にかけ(、フィルアウン*の宗教から背け)ようとして、どんな御徴を披露したとしても、私たちはあなたのことを信じたりはしないぞ」。
それでわれら*は彼らに洪水、イナゴ、虱、蛙、血を、断続的な御徴として送った¹。すると彼らは(信仰に対して)奢り高ぶり、罪深い民であり続けたのだ。
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1 まず大雨により作物が全滅すると、フィルアウン*の民は、イスラーイールの子ら*をムーサー*と共に脱出させることを条件に、災難の除去をアッラー*に祈るよう、ムーサー*に頼んだ(アーヤ*134参照)。ムーサー*が祈るとそれは止んだが、彼らは約束を破った(アーヤ*135参照)。その後豊作を迎えたが、今度はイナゴが送られ、作物は再びほぼ全滅これも同様にしてムーサー*の祈りによって止んだが、彼らはまた約束を破った。それで今度は虱が送られ、残りの作物も全滅した。その後も同様に蛙が送られて彼らの住居に侵入したり、また彼らの水という水が全て血に変わったりしたが、彼らの不信仰と嘘は止まなかった(アッ=タバリー5:3607-3608参照)。
そして彼らに(罰の)制裁が下された時、彼らは言った。「ムーサー*よ、私たちのため、あなたの主*に、かれがあなたに約束されたもの¹で祈ってくれ。もしも、あなたが私たちからこの(罰の)制裁を取り除けてくれたなら、私たちは必ずやあなたのことを信じ、必ずやあなたと共にイスラーイールの子ら*を行かせてやろう」。
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1 つまり悔悟すれば、制裁を解除してもらえるという約束のこと(ムヤッサル166頁参照)。
それで、彼らが行き着くことになっている(次の罰の到来)時期まで、われら*が彼らから(罰の)制裁を取り除けてやると、どうであろう、彼らは(約束を)破るのだ。
それで、われら*は(定められた彼らの破滅の時期が来た時、)彼らに報復し、彼らを海原に溺れさせた¹。というのも、彼らはわれら*の御徴²を嘘呼ばわりし、それに対して無頓着な者たちだったからである。
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1 この情景の描写として、ユーヌス*章90-92、ター・ハー章77-78、詩人たち章61-66、煙霧章23-24も参照。 2 この「御徴」は、ムーサー*の数々の奇跡のこと(ムヤッサル166頁参照)。
われら*は抑圧されていた民(イスラーイールの子ら*)に、われら*が祝福したその土地¹の東方と西方を引き継がせた。イスラーイールの子ら*に対するあなたの主*のよき御言葉²が、彼らが忍耐*したことゆえに完遂されたのだ。そして、われら*はフィルアウン*とその民が作り上げていたものと、築き上げていたもの³を破壊したのである。
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1 シャーム地方(現在のシリア、パレスチナ周辺地域)のこと(前掲書、同頁参照)。エジプトとシャーム地方のこと、という説もある(アル=バガウィー2:226参照)。 2 この「御言葉」とは、物語章5-6にある内容のことである、と言われる(アッ=タバリー5:3618参照)。 3 「作り上げていたもの」とは建物や農場など、「築き上げていたもの」とは城郭などのことである、と言われる(ムヤッサル166頁参照)。
われら*はイスラーイールの子ら*に海を渡らせた。そして彼らは、自分たちの偶像に奉仕し続ける民のところに出くわした。彼ら(イスラーイールの子ら*)は言った。「ムーサー*よ、彼らに神々¹があるように、私たちにも神(の偶像)を一つ、こしらえてくれ」。彼(ムーサー*)は言った。「本当にあなた方は、無知な民である。
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1 「神々」については、雌牛章133の訳注を参照。
実にこれらの者たちは、(シルク*という)その状況が滅ぼされる(ことになる)のであり、その行っていたことは無に帰す(ことになる)のだから」。
彼(ムーサー*)は言った。「一体私が、あなた方に対し、アッラー*以外のものを神として欲するとでもいうのか?かれはあなた方を、全創造物の上にお引き立てになった¹というのに」。
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1 「全創造物の上にお引き立てになった」については、雌牛章47も参照。
(イスラーイールの子ら*よ、)われら*があなた方を、フィルアウン*の一族から救い出した時のこと(を思い起こすがよい)。彼らはあなた方に過酷な懲罰を味わわせ、あなた方の男児は殺しまくり、女児は生かしておいた。そこには、あなた方の主*からの偉大な試練があったのだ。
われら*は、ムーサー*と三十夜を約束した。そしてわれら*は、それを(更なる)十夜で完遂し、彼の主*の定められた期間は四十夜¹として完了した。ムーサー*はその兄ハールーン*に、(こう)言った。「(私の不在中、)我が民の中で私の代理を務めてくれ。そして(彼らの状態を)正すのであり、腐敗*を働く者たちの道に従ってはならない」。
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1 「四十夜」については、雌牛章51の訳注を参照。
そしてムーサー*がわれらの定めた時にやって来て、かれの主が彼に語り給うた¹時、彼(ムーサー*)は申し上げた。「わが主よ、私に(お姿を)お見せ下さい。あなたを拝見しますから²」。かれは仰せられた。「あなたが、われをみることは出来ない。だが、その山を見るのだ。そして、もしそれがその場にしっかりと留まっているのなら、あなたはわれを見るであろう³」。それで、彼の主が山にお姿をお見せになると、かれはそれを粉々にされ、ムーサー*は気絶して倒れた。そして意識を取り戻すと、彼は申し上げた。「あなたに称え*あれ!私は、あなたに悔悟しました。そして私は、(我が民の内の)信仰者の先駆けです」。
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1 同一文、あるいは連続した文章における人称の転換に関しては、食卓章12の訳注参照のこと。 2 家畜章103と、その訳注も参照。 3 つまり、ムーサー*よりも強くて堅固な山が、アッラー*のお姿を前にして確固としていられたら、彼もそのお姿を拝見できるだろう、ということ(アル=クルトゥビー7:278参照)。
かれは仰せられた。「ムーサー*よ、本当にわれは、わが言伝とわが言葉¹で、あなたを人々の上に選りすぐった。ならば、われがあなたに授けたもの²を手にし(て、それを遵守し)、感謝する者の一人となるのだ」。
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1 「言伝」とは、人々をアッラー*への教えへと招く、使徒*としての使命。「言葉」とは、アッラー*が直接彼に語りかけられたという特別な栄誉のこと(ムヤッサル168頁参照)。 2 アッラー*のご命じになったことと、禁じられたこと(前掲書、同頁参照)。
われら*は彼(ムーサー*)のため、(宗教において必要な)全ての物事を、つまり訓戒と、全てのものの詳細¹を、碑板の中に記した。ならばそれを真摯に受け取り²、あなたの民に命じて、その最善のものを行わせよ³。じきにわれは、あなた方に放逸な者たちの住まいを見せてやるから⁴。
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1 つまり、法規定・義務・物語・信仰教義・不可視の世界*の情報など網羅(もうら)した、トーラー*のこと(前掲書、同頁参照)。 2 「真摯に受け取る」については、雌牛章63の訳注を参照。 3 つまり、その命令を実行し、禁令を避(さ)け、たとえと訓戒を熟慮(じゅくりょ)すること。あるいは、「最善のもの」とは義務と任意の服従行為で、その他の合法な物事が「それ以下のもの」(アル=クルトゥビー7:282参照)。 4 来世において、彼らの内の、あるいは彼ら以外のシルク*の徒の行き先である地獄をお見せになる、ということ(ムヤッサル168頁参照)。ほかにも、「エジプト」「シャーム地方(現在のシリア、パレスチナ周辺地域)」といった解釈などもある(アル=クルトゥビー7:282参照)。
われら*は、不当にも地上で(われら*への服従に対し、そして人々に対し)奢り高ぶる者たちを、わが御徴¹(の理解)から遠のけてしまおう。そして彼らは、いかなる御徴を目にしても、それを信じることがない。また正しさの道を目にしても、それを道として選ぶこともない。そして誤りの道を目にすれば、それを道として選んでしまう。それというのも、彼らがわれら*の御徴を嘘とし、それに無頓着な者たちだったからなのである。
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1 この「御徴」とは、アッラー*の偉大さとその法規定を示す証拠のこと(ムヤッサル168頁参照)。
われら*の御徴と来世における拝謁を嘘呼ばわりする者は、その行いが台無しになってしまったのである。一体彼らが(来世で)報いを受けるのは、自分たちが(現世で)行っていたこと(によるもの)以外の、何ものでもないのではないか?
ムーサー*の民は彼の(アッラー*との約束のための出発)後、彼らの宝飾品から、実体があり、鳴き声を有する仔牛を作り出した¹。一体彼らは、それが彼らに語りかけもしなければ、彼らを(よき)道に導きもしないことを知らなかったのか?彼らはそれを、(崇拝*の対象として)選んだのであり、彼らは不正*者だったのである。
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1 この時の状況については、ター・ハー章83-98に、より詳細に描写されている。
そして(仔牛の崇拝を)後悔し¹、自分たちが確かに迷い去っていたのを知ると、彼らは言った²。「もしも我らが主*が私たちにご慈悲をかけて下さらず、私たちをお赦しにならなければ、私たちは本当に損失者の類いとなってしまいます」。
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1 この「後悔した」は、直訳的には「自分たちの手の中に落とされた」という表現。後悔する者が、苦悩ゆえに自分の手に口をつけて噛(か)む様子が、その意味の由来とされる(アッ=シャウカーニー2:352参照)。 2 これはムーサー*がアッラー*との語らいを終え、シナイ山を降りて民のもとに帰ってきた後のことである(アッ=タバリー5:3638-3639、ムヤッサル168頁参照)。
ムーサー*は怒り、悲しみつつ、その民のもとに戻って来た時¹、(こう)言った。「私の(出発)後に、あなた方が務めた我が代役の何と醜悪なことか。一体あなた方は、自分たちの主*の定めを急いだのか²?」彼は碑板を投げ³、彼の兄(ハールーン*)の頭をつかんで自分の方に引き寄せた。彼(ハールーン*)は言った。「我が母の息子⁴よ、本当に民は私を軽んじ、私を今にも殺さんばかりだったのだ。だから、私(に対してあなたがすること)ゆえに、敵を喜ばせたりしてはいけない。そして私を、不正*者である民と一緒にはしないでくれ」。
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1 この「怒りと悲しみ」は、彼がアッラー*から、民がサーミリーによって不信仰に走ったことを知らされたため(ムヤッサル169頁参照)。詳しくは、ター・ハー章85を参照。 2 この「定め」には、「四十日間の約束(雌牛章51「四十夜」の訳注を参照)」「主*のお怒り」「主*のご命令もないままに、仔牛の崇拝*へと急いだこと」といった解釈がある(アル=クルトゥビー7:288参照)。 3 イブン・カスィール*によれば、大半の学者は、ムーサー*が「碑板を投げ」たのは、民への怒りゆえのことであったとしている(3:477参照)。 4 ムーサー*とハールーン*の父母は、そもそも同一。この言い回しは、母親を前面に出すことによって、より相手の同情を引くための修辞的表現であるとされる(アッ=タバリー5:3645参照)。
彼(ムーサー*)は申し上げた。「我が主*よ、私と我が兄をお赦し下さい。そして私たちを、あなたのご慈悲の中にお入れ下さい。あなたは慈悲深い者の中でも、最も慈悲深いお方です」。¹
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1 イスラーイールの子ら*のこの罪が招いた結果については、雌牛章54とその訳注を参照。預言者*・使徒*の無謬(むびゅう)性については、同章36の訳注を参照。
本当に仔牛を(崇拝*の対象として)選んだ者たち、彼らには、彼らの主*からのお怒りと、現世の生活における辱めが降りかかろう。同様にわれら*は、(宗教における)捏造者たちに報いるのである。
そして悪行を犯し、それからその(悪行の)後に悔悟して信仰する者たち、本当にあなたの主*はその(悔悟の)後、(彼らに対して)まさしく赦し深いお方、慈愛深い*お方であられる。
ムーサー*の怒りが沈まると、彼は碑板を(再び)手に取った。その写しには自分たちの主*こそ恐れる者たちへの導きと、ご慈悲がある。
そしてムーサー*はわれら*との約束の時¹のため、彼の民から七十人の(秀でた)男たちを選んだ。そして彼らを激震が捕らえた²時、彼(ムーサー*)は申し上げた。「我が主*よ、もしあなたがお望みならば、あなたは彼らと私を(これ)以前
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1 彼らの内の愚か者が仔牛の件で犯した罪(アーヤ*148以降参照)に関し、アッラー*に悔悟するため、シナイ山に赴(おもむ)く「約束の時」のこと(ムヤッサル169頁参照)。 2 一説に、この激震による罰の原因は、彼らがムーサー*に、雌牛章55にあるような言葉を言ったせいであり、これによって彼らは死んでしまったとされる(前掲書、同頁参照)。 3 イスラーイールの子ら*の内、選り抜きの七十人が死んでしまったら、ムーサー*は残った民のところへ戻って行った時、彼らに何と言い訳していいか分からなくなる。もし、これ以前に民が全滅させられていたら、その方がむしろムーサー*にとってはましだったのである(ムヤッサル169頁参照)。
また、私たちにこの現世において、善きものをお定め下さい。そして来世においても¹。本当に私たちは、あなたに悔悟したのですから」。かれ(アッラー*)は仰せられた。「わが懲罰、われはそれで、われが望む者を襲うのだ。そしてわが慈悲は、あらゆるものに広く及んでいる。われは(われを)畏れ*、浄財*²を払う者たち、われら*の御徴を信じるその者たちに、それ(慈悲)を定めよう。
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1 現世での「善きもの」とは、有益な知識、豊かな糧(かて)、正しい行い*など。来世における「善きもの」とは、アッラー*が正しい者*にご用意された褒美のこととされる(アッ=サァディー305頁参照)。 2 この「浄財*」は、義務の浄財*とも、「心を清めること」とも、あるいは、その両方であるともされる(イブン・カスィール3:483参照)。
(その者たちとは、)彼ら(啓典の民*)が、自分たちのもとにあるトーラー*と福音*の中に記されているのを見出すところの、使徒*、文盲の預言者*¹に従う者たち。彼は、彼らに善事を命じて悪事を禁じ²、善きものを合法として悪いものを非合法とする³。また彼は、彼らの上にのしかかっていた重課と枷を、彼らから取り除いてくれる⁴。彼を信仰し、敬い、援助して、彼と共に下された光⁵に従う者たち、それらの者たちこそは、成功者なのである」。
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1 トーラー*と福音*の中でその特徴や氏名について記されている、預言者*ムハンマド*のこと(ムヤッサル170頁参照)。雌牛章129「使徒*」の訳注、戦列章6とその訳注も参照。 2 「善事を命じて悪事を禁じる」については、イムラーン家章104の訳注を参照。 3 ここでの「善きもの」とは、本来合法であるにも関わらず、人々が勝手に非合法と見なしていた物事であり、「悪いもの 」とは豚肉や利息*のように、そもそもアッラー*が禁じられたにも関わらず、人々が合法としていた物事のことであるという(アッ=タバリー5:3663参照)。 4 「重課」と「枷」とは、イスラーイールの子ら*が結んだアッラー*との契約と、その中で従うように命じられた厳しい決まりのこととされる。預言者*ムハンマド*は、「尿(にょう)がかかった衣服はその部分を切り取ること」「戦利品*の非合法性」「月経中の妻と一緒に座ったり、食べたり、寝たりすることなどの禁止」といった過去の厳しい決まりを、合法化した(アル=クルトゥビー7:300参照)。 5 この「光」とは、クルアーン*、および預言者*のスンナ*のこと(ムヤッサル170頁参照)。
(使徒*よ、)言ってやるがいい。「人々よ、本当に私はあなた方全員への、アッラー*の使徒*である¹。(アッラー*は、)かれにこそ諸天と大地の王権が属するお方。かれの外に、崇拝*すべきものなどはない。生を与え、死を与えられる(お方)。ならばアッラー*と、アッラー*とその御言葉を信じるその使徒*。文盲の預言者*を信じ、彼に従うのだ。あなた方が導かれるようにするために」。
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1 預言者*ムハンマド*は、それ以前の預言者*のように、特定の民に遣わされたのではない。彼は、全人類への教えと共に到来した(アッ=タバリー5:3665参照)。家畜章19、識別章1、サバア章28も参照。
そしてムーサー*の民の中にも、真理に(則り、それに)よって導き、それで正義を行う一派がある。
また、われら*は彼ら(イスラーイールの子ら*)を、十二支族の集団に分けた。そしてムーサー*に対し、その民が彼に水を乞うた時、われら*は「あなたの杖で、その石を叩くがよい」と啓示した。するとそこから十二の泉が湧き出た。(十二支族の)全ての人々は、確かに自分たちの水場を知った。また、われら*は雲々で彼らの上に日陰を作り、彼らのためにマンヌとウズラ¹を下し(て、言っ)た。「われら*があなた方に授けた、よきものを食べよ²」。彼らがわれら*に不正*を働いたのではない。しかし彼らが、自分自身に不正*を働いたのである。
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1 「マンヌ」と「ウズラ」に関しては、雌牛章57の訳注を参照。 2 これらはイスラーイールの子ら*が荒野にあった時、アッラー*から恵まれた恩恵の数々である(イブン・カスィール1:133参照)。同様の描写のある、雌牛章57-61も参照。
彼らに、(こう)言われた時のこと(を思い起すがよい)。「この町¹に住み、そこでどこからでも食べるがよい。そして『(私たちが望むのは、罪の)免除です』と言って、身を低めつつ謹んで門に入るのだ。(そうすれば)われら*は、あなた方の過ちを赦してやる。われら*は善を尽くす者²たちには、更に(褒美を)上乗せしてやろう」。
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1 「この町」については、雌牛章58の訳注を参照。 2 「善を尽くす者」については、蜜蜂章128の訳注を参照。
すると彼らの内の不正*を働く者たちは、御言葉を自分たちに言われたのではないものと変えてしまった。そこでわれら*は、彼らが不正*を働いていたゆえに、彼らの上に天から(罰という)制裁を送ったのだ。¹
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1 この話の詳細については、雌牛章59の訳注を参照。
また(使徒*よ、)、海に面していた町(の人々)について、彼ら(ユダヤ教徒*)に尋ねてみよ。彼らが、土曜(の安息)日に破った時¹。彼らの土曜(の安息)日には、彼らの魚群が彼らのもとに大挙して水面までやって来たが、彼らが安息しない日には、それらが彼らのもとにやって来なかった時ののこと。そのようにわれらは彼らを、彼らが放逸であったことゆえに試みたのである。
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1 この出来事については、雌牛章65の訳注も参照。
また、彼らの一派が(こう)言った時のこと(を思い起こさせよ)。「なぜあなた方は、アッラー*が(現世で)破滅させるか、あるいは(来世において)厳しい罰で罰されようとする民を戒めるのか?」彼らは言った。「あなた方の主*に対する弁解ゆえ(、そうするのだ)。彼らが(アッラー*を)畏れる*ようにするためである」。¹
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1 アーヤ*163の試練において、町の人々は三つの集団に分かれた。つまり、①魚を採って安息日を破った者たち、②それを止めようとし、彼らから距離を置いた者たち、③安息日を破りはしなかったが、それを破る者たちを止めなかった者たち。アーヤ*冒頭の言葉は、この③の集団から、②の集団に向けて発せられたものである(イブン・カスィール3:494参照)。
それで彼らが戒められた物事を忘れてしまった時、われら*は悪を禁じる者たちを救い出し、不正*を働いた者たちを、彼らが放逸であったことゆえに惨憺たる懲罰で捕えた。
そして彼らが禁じられたことに反抗した時、われら*は彼らに言った。「惨めな猿になってしまえ¹」。
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1 雌牛章65と食卓章60も参照。
また(使徒*よ、)あなたの主*が彼ら(ユダヤ教徒*)に対し、彼らに過酷な懲罰を味わわせる者を、復活の日*まで必ずや送(り続け)るということ¹をお知らせになった時のこと(を、思い起こさせよ)。本当にあなたの主*はまさしく、即座に懲罰を下されるお方²であり、本当にかれは(悔悟する者に対して、)実に赦し深いお方、慈愛深い*お方なのだ。
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1 「過酷な懲罰」とは、屈辱(くつじょく)や、ジズヤ*の徴収(ちょうしゅう)などによるもの。それは彼らがアッラー*のご命令と法に反抗し、禁じられた物事をごまかしつつ犯していたためである(アル=カースイミー7:2893参照)。 2 アッラー*のに対する不信仰と不服従ゆえに、かれの懲罰が確定した者に対して、「即座に懲罰を下されるお方」(ムヤッサル172頁参照)。
またわれら*は地上において、彼ら(イスラーイールの子ら*)を数々の集団に分けた。彼らの内には正しい者*たち¹もいれば、そうでない者たちもいる。そしてわれら*は彼らが(われら*に悔悟して)立ち返るべく、彼らを善きことと悪いこと²によって試練にかけたのである。
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1 この「正しい者*たち」とは彼らの内、預言者*ムハンマド*のことを知り、信じた者たち(アル=クルトゥビー7:310参照)。 2 「善きこと」とは豊作や健康、「悪いこと」とは不作や困難のこと(前掲書、同頁参照)。
そして彼らの後に、啓典を引き継いだ愚かな後継者が到来した。彼らは現世のつまらぬ利益を(禁じられた手段で)手にし、(こう)言う。「私たちは赦されるであろう」。また、もしそれと同様の(禁じられた種類の)つまらぬ利益が彼らのもとにやって来れば、彼らはそれを(反省せずに)手にするのだ。一体彼らは、アッラー*に対して真実しか語らない、との啓典の確約¹を取られたのではなかったか?そして彼らは、その内容を学んだ(上で、それに反した)のである。(アッラー*を)畏れる*者にとっては、来世の住まいがより善いのだ。一体あなた方は、弁えないのか?
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1 彼らの啓典トーラー*に沿って行う、との確約(ムヤッサル172頁参照)。雌牛章27の訳注も参照。
啓典を固守し(それに則って行い)、礼拝を遵守*した者たち、本当にわれら*は改善者たちの褒美を、無駄にはしない。
また、われら*が山を彼ら(イスラーイールの子ら*)の上方に、まるで覆いかぶさる雲のように掲げ、彼らがそれが自分たちの上に落下してくるものと確信した時のこと(を思い起こさせよ)¹。(その時、われら*は言った。)「われら*があなた方に授けたものを、真摯に受け取る²がよい。そして(われら*を)畏れる*べく、その内容を心に刻み込むのだ」。
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1 同じ出来事の描写として、雌牛章63、93も参照。 2 「われら*があなたに授けたものを、真摯に受け取る」については雌牛章63の訳注を参照。
そして(使徒*よ、)あなたの主*が、アーダム*の子らの後背部から彼らの子孫を取り出し、彼ら自身に対して(こう)証言させた時のこと(を思い起こさせよ。われらは言った)。「一体われは、あなた方の主*ではないのか?」彼らは言った。「その通りです。私たちは証言しました」。(それは、)あなた方が復活の日*に「本当に私たちは、これに対して無頓着な者だったのです」などと言わないようにするためである。¹
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1 このアーヤ*の意味については、よく知られた二つの解釈がある:①アーダム*の子らの後背部からその子孫を取り出す」というのは、人類を世代から世代へと出現させることで、「アッラー*こそが主*であるという証言」とは、彼らがそのことを示す根拠を提示されて、それを認めること。②アッラー*は文字通り、アーダム*の後背部からその全ての子孫を粒子の形でお出しになり、かれが彼らにとっての主であるとの証言をさせられた。しかしその後、各人はその約束を忘れて生まれてくるため、それを想起させるべく使徒*たちが遭わされるのである、というもの(アッ=シャンキーティー2:42-43参照)。
あるいは、あなた方が「私たちのご先祖様こそが以前に(確約を破って)シルク*を犯したのであり、私たちは彼ら(に従っていただけ)の後の子孫なのです。なのに、あなたは(シルク*によって自らの行いを)無駄にする者たちがしたことゆえに、私たちを滅ぼされるのですか?」などと言わないようにするためである。
そのようにわれら*は、御徴を詳らかにするのだ。(それは、不信仰者*たちがそれを熟慮し、)彼らが(われら*に悔悟して、)立ち返るようにするためである。
(使徒*よ、)われら*がわれら*の御徴を授けたものの、それを放棄し、シャイターン*に従わせられ、それで(不信仰へと)逸脱した者の類いとなった者の消息¹を、彼ら(あなたの民)に語って聞かせるがいい。
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1 これは、アッラー*の御徴について真実の知識を授けられたものの、その知識が高徳と善行を命じ、高い地位を約束しているにも関わらず、啓典とそれが命じる高徳を放棄し、最も卑(いや)しい位階に成り下がった者のたとえ(アッ=サァディー308頁参照)。
そして、もしわれら*が望んだのであれば、われら*はそれ(御徴)で彼(の位)を上げてやっただろう。だが彼は(現世という)地にしがみつき、自分の欲望に従ったのだ。それで彼の様子は、犬の様子のようである。あなたがそれを追い立てても舌を出して喘いでいるし、放ったらかしにしても舌を出して喘いでいる¹。それは、われら*の御徴を嘘呼ばわりした民の様子のこと。ならば彼らが熟考するように、その物語を語って聞かせるのだ。
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1 これは、イスラーム*を熱心に勧(すす)めても、または放ったらかしにしても、結局は不信仰であり続ける者のたとえ(ムヤッサル173頁参照)。
われら*の御徴を嘘呼ばわりした民の様子の、何と忌まわしいことか。彼らは自分自身に、不正*を働いていたのである。
誰であろうとアッラー*がお導きになった者、それが導かれた者なのだ。そして誰であろうと、かれが迷わせ給うた者、それらの者たちこそは損失者なのである。
われら*は確かに、多くのジン*と人間を地獄のために創った。彼らには理解することのない心があり、見ることのない眼があり、聞くことのない耳がある¹。それらの者たちは家畜のよう。いや、彼らは(それら)よりひどく迷っている²。それらの者たちこそは、(信仰に)無頓着な者たちなのだ。
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1 この表現は、これらの器官の感覚機能を否定しているのではない。心を(本来の使い方において)役立てられず、(来世での)褒美も分からず、懲罰も怖れないために「理解することがない」とし、導きを「見ること」がなく、訓戒を「聞くことがない」としているのである(アル=クルトゥビー7:324参照)。家畜章50、雷鳴章16、フード*章20、24とその訳注も参照。
アッラー*にこそ、美名は属する¹。ならば、それによってかれに祈願するのだ。そして、かれの美名において(真理から)逸脱する者²たちは、放っておくがいい。彼らはいずれ、自分たちが行っていた(悪)事の応報を受けることになるのだから。
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1 家畜でさえ、自分への害悪を見極(みきわ)め、その飼い主に従うのに、彼らはそれとは正反対であることのたとえ(ムヤッサル174頁参照)。 2 預言者*ムハンマド*は仰った。「アッラー*は九十九の美名がある。それを数え上げた者は、天国に入るであろう」(アル=ブハーリー6410参照)。しかし実際のところ、アッラー*の美名は九十九という数に限定されないとされる(イブン・カスィール3:515参照)。
われら*はが創ったものの内には真理によって導き、それによって正義を行う共同体がる。
また、われら*の御徴を嘘呼ばわりした者たち、われら*は彼らを、彼らが知らない所から徐々に(破滅へと)導いて行こう。¹
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1 「かれの美名において・・・逸脱する」とは、アッラー*の美名を改変したり、勝手に創ったりすること(ムヤッサル174頁参照)。当時のマッカ*の不信仰者*たちは、アッラー*の美名に手を加え、彼らの偶像に「アッラート(『アッラー*』を女性形に改変したもの)」とか「アル=ウッザー(『アル=アズィーズ』(威力ならびない*お方)″の女性形)」などという名称をつけていた(イブン・カスィール3:516参照)。星章19と、その訳注も参照。
そしてわれら*は彼らに、猶予を与えておくのだ。本当にわが策略¹は、手堅いのだから。
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1 彼らに有よを与えておくことにおける、アッラー*の「策略」については、イムラーン家章178を参照。
一体、彼らは熟考しなかったのか?彼らの仲間(ムハンマド*)には、憑き物など憑いてはいない¹。彼は明白なる警告者に外ならないのだ。
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1 「憑かれた者」については、アル=ヒジュル章6の訳注を参照。
また、一体彼らは、諸天と大地の絶対なる王権と、(そこに)アッラー*がお創りになったものを見ないのか?そして彼らの(死の)期限が、確かに迫ってしまったかもしれないことを?ならば、それ(クルアーン*の警告)を差しおいて、彼らは一体いかなる話を信じるというのか?
誰であろうとアッラー*が迷わせ給うた者、彼にはいかなる導き手もない。かれは、彼らが彷徨うまま、そのひどい放埓さの中に彼らを放ったらかしにされる。
(使徒*よ、)彼ら(マッカ*の不信仰者*)は復活の日*について、その到来がいつなのか、あなたに尋ねる。言ってやるがいい。「その知識は、我が主*の御許にこそある。その(到来する)時期にそれを露わにされるのは、かれのみなのだ。それは諸天と大地(の住人たち)に重い¹。それは突然にしか、あなた方のもとにやって来ることがないのだ」。彼らはまるで、あなたがそれ(を知ること)に躍起な者²であるかのように、あなたに尋ねる。言ってやれ。「その知識は、アッラー*の御許にこそある。しかし人々の大半は、(そのことが)分からないのだ」。
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1 復活の日*が到来する時期に関する知識は、かれ以外の誰にも知り得るものではない、ということ(ムヤッサル174照頁参照)。 2 つまり躍起さゆえに、その知識に到達した者、という意味(イブン・アーシュール9:204参照)。
(使徒*よ、)言うがよい。「私は自分自身に対し、アッラー*がお望みになったものの外、益(する力)も害(する力)も有してはいない。そして、もし私が不可視の世界*を知っていたら、善いことを増や(すことばかり)しただろうし、私に悪が降りかかることもなかっただろう¹。私は、信仰する民に警告を告げる者、吉報を伝える者²に過ぎないのである」。
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1 預言者*は、アッラー*から教わること以外、不可視の世界*について知ることがない(イブン・カスィール3:523参照)。イムラーン家章179、家畜章50とその訳注、ジン*章26-27も参照。 2 「警告を告げる者」「吉報を伝える者」については、雌牛章119の訳注を参照。
かれ(アッラー*)はあなた方を一人の者(アーダム*)からお創りになり、彼がそこへと安らぐべく、彼自身からその妻(ハウワーゥ*)を創造されたお方。彼が彼女¹に覆いかぶさった時²、彼女は軽い荷³を宿し、それを身ごもり続けた。そして(お腹が)重くなった時、二人は彼らの主*アッラー*に(こう)祈ったのだ。「もしも、あなたが私たちに正しい者⁴をお授け下さったならば、私たちは必ずや感謝する者となりましょう」。
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1 この「彼」と「彼女」は、アーダム*とハウワーゥ*の子孫である不特定の夫婦を指す、というのが大半の解釈学者らの見解とされる(ムヤッサル175頁参照)。 2 つまり、成功のこと(前掲書、同頁参照)。 3 「軽い重荷」とは、精液のこと(前掲書、同頁参照)。 4 この「正しい者」とは、健全な子供ということ(ムヤッサル175頁参照)。
そして、かれが二人に正しい者を授けられた時、彼らはかれが自分たちに授けて下さったものにおいて、かれに(かれの崇拝*における)同位者たちを設けた¹。かれは、彼らが(アッラー*の崇拝*において)シルク*を犯しているものから(無縁で)、遥か高遠なお方であられる。
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1 つまり、その子供を誕生させ、恵んでくださったのは、誰ならぬアッラー*であるにも関わらず、その子供をアッラー*以外のものの僕(しもべ)とした(アッ=サァディー311頁参照)。
一体彼らは、それら(自身)が創られるものであって、何一つ創造することもないようなものを、(崇拝*においてアッラー*と)並べるというのか?
それからは彼らへの援助も出来ないどころか、自分自身すら救えないというのに。
そして(シルクの徒よ、)もしあなた方がそれら(アッラー*の崇拝において同位者としているもの)を導きへと招いたところで、それらがあなた方に従うことはない。あなた方がそれらを招こうが、沈黙していようが、あなた方にとっては同じことなのである。
本当に、あなた方がアッラー*を差しおいて祈っているものは、あなた方同様(アッラー*)の僕たちなのだ。ならば、それらを呼び、あなた方に応えさせてみるがいい。もし、あなた方が本当のことを言っているのならば。
一体それらには、歩く足があるというのか?いや、一体それらには、制する手があるというのか?いや、一体それらには、見る(ことの出来る)眼があるというのか?いや、一体それらには、聞く(ことの出来る)耳があるのか?(使徒*よ、)言ってやるのだ。「あなた方(がアッラー*)の同位者(としているもの)たちに、祈るがいい。それから私に対して(災いが降りかかるよう)、策謀してみよ。私には、猶予を与えてくれなくてもいい。
本当に私の庇護者*は、啓典(クルアーン*)を下されたアッラー*なのだから。かれは、正しい者*たちを庇護して下さる。
そして(シルク*の徒よ、)、あなた方がかれを差しおいて祈っている者たちは、あなた方を援助できず、自分自身すら救えない。
また、もしあなた方がそれらを導きへと招こうとも、それらは聞きはしない。そして(使徒*よ、)あなたは、それらが自分の方を見ていると思うだけ。それらは、見てなどいないのだが。
(預言者*よ、)あなた¹は雅量を身につけ、善事²を命じ、無知な者たち(との争い)から遠ざかれ。
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1 この「あなた」については、雌牛章120の訳注を参照。以下、同様の表現の際にも、同訳注を参照。 2 「善事」については、イムラーン家章104の訳注を参照。
そして、もしシャイターン*からの一突きがあなたを突くようなことがあれば¹、アッラー*にご加護を乞うのだ。かれこそはよくお聴きになられるお方、全知者であられるのだから。
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1 つまり、シャイターン*に怒りを煽(あお)られたり、そのあくの囁(ささや)きを感じたり、善の妨害と悪の扇動(せんどう)に出くわしたりすること(ムヤッサル176頁参照)。
本当に(アッラー*を)畏れる*者たちとは、シャイターン*の内の徘徊者が自分たちに触れた時、(アッラー*への服従と悔悟の義務を)思い出すのである。するとどうであろう、彼らは開眼した者となるのだ¹。
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1 つまり誤(あやま)りとシャイターン*の策謀を見極(みきわ)め、それを避(さ)け、そこにおいてシャイターン*に従わない(アル=バイダーウィー3:85参照)。
そして、彼ら(ジン*のシャイターン*)の同胞(である、人間のシャイターン*)。彼ら(ジン*のシャイターン*)は、逸脱において彼ら「人間のシャイターン*)を助長するのであり、抜かりがない¹。
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1 ジン*のシャイターン*は彼らを逸脱させるのに抜かりなく、人間のシャイターン*も彼らに従うことに抜かりない(ムヤッサル176頁参照)。
また(使徒*よ)、あなたが彼ら(シルク*の徒)に御徴を持って来なければ、彼らは言う。「どうして、それを選ばないのか?¹」言ってやるのだ。「私は、我が主*から啓示されるものに従っているだけ。これ(クルアーン*)はあなた方の主*からの開眼²、導き、信仰する民へのご慈悲なのだ」。
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1 つまり、「クルアーン*のアーヤ*を捏造(ねつぞう)してみよ」ということ。時に啓示は遅れることがあり、不信仰者*たちはこのように挑発したのだという。また一説には、「アッラー*に頼んで、自分が選んだ奇跡を叶(かな)えてもらえ」という意味(イブン・ジュザイ1:335参照)。 2 「開眼」についてはm家畜章104の訳注を参照。
クルアーン*が読まれたら、あなた方が慈しまれるよう、それに耳を傾け、傾聴せよ。
また(使徒*よ、)朝に夕に自分の内で¹、謹んで怖れながら、声を上げ(過ぎ)ることなく、あなたの主*を念じるのだ。そして、(アッラー*の唱念に)無頓着な者の類いであってはならない。
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1 「自分の内で」とは、「舌を動かすことなく、心で」あるいは「舌を動かしつつも、密かに」ということ。後者の解釈の場合、「声を上げ(過ぎ)ることなく」という部分は、その念じ方の説明となるが、前者の場合、「声を上げ(過ぎ)ることなく」という部分は、別の念じ方における状況を表すことになる(イブン・ジュザイ1:336参照)。
本当にあなたの主*の御許に侍る者たち¹は、かれを崇拝*することにおいて奢り高ぶることなく、かれを称え*、かれのみにサジダ*するのだ。
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1 天使*のこと(ムヤッサル176頁参照)。