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アリフ・ラーム・ラー。このような節の意味に関する議論は、雌牛章にて言及された通りである。クルアーンは、その章句が完全に構成された書物であり、その中に欠陥や欠落は存在しない。それから、それは合法と非合法、命令と禁止、約束と警告、逸話などの言及によって説明される。かれは諸事と法の執行において賢明であり、かれの僕たちの状態と彼らの最善の利益について熟知される。
ムハンマドに啓示されたこれらの節は、人々がアッラー以外の存在を崇拝することを禁じている。人々よ、もしあなた方がアッラーを信じず、かれに従わないなら、私はアッラーの懲罰についてあなた方に警告する。そして、もしあなた方がかれへの信仰を持ち、かれのイスラーム法を実践するのなら、私はあなた方にかれの報奨についての吉報を与えよう。
人々よ、あなた方の主から罪の赦しを願い求め、自身の欠点を悔い改めてかれに悔悟せよ。かれはあなた方が定められた寿命を全うするまで、現世の生活の中であなた方に良い供給を授けてくれよう。かれは、徳のあるすべての者に、かれへの従順という善行に対する完全な報奨を、少しも減らすことなく与えるのである。もしあなた方が、私が主からもたらされた信仰に対して背き去るのなら、私は激しい恐怖の日(復活の日)におけるあなた方への懲罰を恐れる。
人々よ、復活の日にあなた方が帰り着くところはアッラーのみである。かれの全能性はすべてに及び、何一つとしてそれを損なうものはない。あなた方の死後、あなた方を招集して生命を与え、清算することは、かれにとって全く困難なことではない。
これらの偶像崇拝者たちは、アッラーの使徒から隠れるために背中を曲げ、頭を下げる。たとえアッラーの使徒から見られないよう、彼らが衣服で頭を覆い、彼のもたらしたものから背き去っても、アッラーは彼らが隠すものも公にするものも知っている。かれは心の中にある意図を知っており、かれから隠されていることは何ひとつとしてない。
地球上の生物は、それが何であれ、アッラーの恩寵を享受していないものはない。かれは、それらが地球上のどこに住んでいるか、そしてどこで死ぬのかを知っている。被造物すべての恩寵や生死の場は、保護された碑板である明確な書に記されている。
天地を壮大な形で創造したのはかれであり、6日間で天地の間に含まれる全てのものを創造した。かれがそれらを創造する前、かれの玉座は水の上にあった。人々よ、アッラーはあなた方の内、誰がかれを喜ばせる行いをし、そして誰がかれを怒らせる行いをするのかを試みるために、これらすべてを創造したのだ。かれは各集団に値するものを報われるのだ。使徒よ、あなたが「人々よ、あなた方は死んだ後、精算のために復活されるのだ」と言うなら、アッラーを信じず、復活を拒否する者たちは、「あなたが唱えるこのクルアーンは、単なる魔術に過ぎず、明らかに偽だ」と言い張るだろう。
もし、われらが偶像崇拝者たちに対する現世の懲罰を延期したなら、彼らは、懲罰を遅らせているのは何なのかと言って、すぐにそれが来るよう求めて嘲笑する。実に、彼らにふさわしい懲罰はアッラーによって定められた時にもたらされ、その時、彼らはそれを防ぐものを見い出すことはない。彼らが嘲笑しつつ、すぐに来るように要求した懲罰は彼らに降りかかり、彼らを取り囲むのである。
もし、われらが人間に健康や富などの祝福を授けた後、その祝福を彼らから奪うと、彼らはわれらの慈悲への希望を失い、われらの祝福を忘れて非常に恩知らずとなる。
また、貧困や病気を経験させた後、われらがそのような者に多くの恩寵や健康を与えると、彼は「私の悩みはなくなり、困難は去った」と言うだろう。彼はわれらの祝福を感謝する代わりに、それにうぬぼれて傲慢となり、人々に対して誇り高く顔を上げて自慢する。
つらい時にも忍耐強く、善行に励み、悪行を避ける者たちだけは、そうではない。これらの善良な者たちは、困難な時期に希望を失ったり、アッラーの祝福に感謝しなかったり、傲慢であったりもしない。それゆえ、彼らは主から罪を赦され、来世の大いなる報奨を受け取るのである。
使徒よ、彼らの不信仰、頑迷さ、兆候の要求により、あなたはアッラーがあなたに伝えるよう啓示したものの一部を彼らに伝えることを躊躇するかも知れない。彼らはその実践に困難を訴えるからである。彼らが「なぜ彼には豊かな財宝が授けられなかったのか。なぜ彼の真実性を証明するため、彼と共に天使が現れなかったのか?」と言うこと恐れ、あなたはその伝達を躊躇するかもしれないが、それでも啓示を伏せてはならない。あなたはただ、アッラーがあなたに伝達するよう命じたものを述べ伝える警告者に過ぎず、彼らが要求する兆候を示してやる必要はない。アッラーは全ての事を司る御方である。
偶像崇拝者たちは、クルアーンがアッラーの啓示ではなく、ムハンマドの創作だと言うのか。使徒よ、彼らへ言うのだ。「もしクルアーンが創作であるというあなた方の主張が真実であると言うのなら、クルアーンと同様の10の章句を作ってみよ。その目的を達成できるなら、アッラー以外の他の援助者の助けを求めても構わない。」
彼らには到底、それを成す術はないのだが、使徒による挑戦を果たすことができなければ、クルアーンがアッラーの知識と共に使徒へと啓示され、それが創作されたものではなく、かれ以外の真の神は存在しないということを信仰者たちは確信せねばならない。こうした決定的な証拠の後、献身的にアッラーへ服従するのかどうか、かれは尋ねる。
現世の生活と、その儚い享楽を望み、行為に基づく来世を望まないなら、アッラーは彼らに健康や安全、豊かな富といった現世での報いを与える。彼らはその行為に対する報いを少しも減らされることはないだろう。
こうした願望を抱く者たちに対する復活の日の報いは、彼らが入ることになる地獄の業火に他ならない。そのとき、彼らの現世での行為に対する報奨は消えてしまい、役立たない。なぜならそれらは信仰や正しい意図に基づいたものではなく、アッラーの報奨と来世の住処を望んでのものではなかったからである。
預言者ムハンマドは、至高なる主による明確な証拠を携えている。それは、彼の発言の真実性を証明する高貴なクルアーンであり、ムーサーに啓示されたトーラー同様、彼の預言者としての真実性を証明する。彼は人々への導きと慈悲として遣わされた。彼らはクルアーンと、その啓示を受けたムハンマドを信じており、彼らは目的もなくさまよう不信仰者たちと同じではない。それを信じない者たちの様々な集団に関しては、復活の日には地獄の業火が終着の場として約束される。預言者よ、それゆえあなたはクルアーンと彼らの終着の場について疑いを抱いてはならない。それは真実であり、疑いの余地がないのだ。ただし、明確な兆候と証拠があるにもかかわらず、ほとんどの者たちは信仰を持つことはない。
誰であれ、アッラーについて嘘をつき、かれに同位者や子を帰属させる者ほど不義の甚だしい者はいない。アッラーについて嘘をつく者は裁きの日にかれの前に連れて行かれ、行為について尋ねられると、天使と使徒の中からの彼らに対する証人は、彼らがアッラーに同位者や子を帰属させ、嘘をついたと証言するだろう。アッラーが彼らの慈悲を奪うのは、彼らのアッラーについての嘘によるものである。
人々をアッラーの正道から妨げ、その正しさに歪曲を加えようと願う者たちは、死後の復活を否定するのである。
もしアッラーが彼らに懲罰を下す意思があるならば、そのような者たちは、現世でアッラーから逃れることはできない。アッラーの懲罰が彼らにもたらされるのを止めることのできる、アッラー以外の守護者はいないのである。彼らは自分たちが背いただけでなく、他の人々もアッラーの道から背かせたので、復活の日の彼らの懲罰は増加するだろう。彼らは真理に対する強い嫌悪感のため、現世において真実の導きを聞いても受け入れることができず、有益なアッラーの兆候を目にすることもなかった。
彼らは、自分自身を失い、アッラーに同位者を帰属させて自ら破滅に向かう者たちである。そして、彼らが祀り上げた同位者や仲介者は、彼らを見捨てるのである。
来世において、彼らが最大の敗北者となることは確かである。なぜなら彼らは信仰に対して不信仰を、来世に対して現世を、そして慈悲に対して懲罰を取り替えたからである。
アッラーとその使徒への信仰を持ち、善行に励む者は謙虚であり、アッラーを畏れる。彼らは永遠に生きる天国の民である。
不信仰者と信仰者を例えると、不信仰者は目の見えない盲人か耳の聞こえない唖者のようである。真実を聞いても受け入れようとしないのが不信仰者だからである。彼らは自分たちにとって有益なものであれ、それを見ようとはしない。一方、見聞きができる者のように、見たり聞いたりできるのは信仰者である。それら双方の状態と性質は同じであろうか。それらは同じではない。それらの本質がいかに異なるかを考慮しないのか。
われらはヌーフを、彼の民へ使徒として遣わせた。ヌーフは、人々にアッラーの懲罰について警告するために遣わされたと伝え、その教えを非常に明白に伝達した。
ヌーフが民にアッラーのみを崇拝し、かれ以外の者を崇拝しないよう呼びかけたのは、人々が苦難の日の懲罰を受けることを恐れたからである。
ヌーフの民の権力者たちは、彼の呼びかけに応じなかった。彼らは、ヌーフが彼らよりも優れているようには見えず、彼ら同様の人間に過ぎないと言った。また、彼らのうちでも最も身分の低い者たちだけが、ヌーフの主張に対して慎重に検討したり状況を調査したりすることもなく愚直に従っているだけだと述べた。彼らは、信仰者たちが彼らよりも高貴でも裕福でもなく、彼らよりも高い地位も持っておらず、彼らに勝る価値は認められないと主張した。それどころか、彼らは信仰者たちが嘘つきであるとみなした。
ヌーフは民に言った。「私の主張が真実であると証明する、主からの明白な預言と教えという証拠を私が携えていても、あなた方が疑念や無知からそれを理解できなければ、私たちはあなた方の意志に反し、信仰を押し付けるべきだとでもいうのか。いや、人に信仰を与えるのはアッラーだけであり、私たちの役目ではない。」
ヌーフは民に言った。「私は教えの伝達に対する金銭的な見返りを求めはしなかった。私に報奨するのはアッラーのみである。私はあなた方が私にそう求めるように、信仰者の貧しい者たちを追放したりはしなかった。彼らは復活の日にアッラーに相見え、彼らの信仰は報われるであろう。あなた方が信仰者の貧しい者たちを追放するよう求めたとき、私はあなた方が現実を理解しない者たちであると見た。」
ヌーフは民に言った。「私が罪のない貧しい信仰者たちを不当に追放したなら、一体誰がアッラーの懲罰から私を守ると言うのか。あなた方は、自分たちにとって何が正しく有益なのかについて熟考し、努力しないのか。」
ヌーフは民に言った。「私は、自分がアッラーの財宝を持っているとは言わない。もしそうなら、あなた方が信じればそれを施しただろう。また、自分に不可視の知識があるとも言わない。また、私たちはあなた方と同じ人間であり、天使ではない。また、あなた方が軽蔑する貧しい者たちについても、彼らが劣っており、アッラーは彼らに成功と指導を与えないだろうとも言わない。アッラーこそは、彼らの意図と状態を最もよくご存知である。私がそのような主張をしたなら、アッラーの懲罰に値する不義者の一人となるだろう。」
民は頑固さと誇りから、ヌーフに言った。「ヌーフよ、我々はもう十分に長い間議論し、論争した。あなたの主張が真実であるなら、約束された懲罰を我々にもたらしてみなさい。」
ヌーフは民に言った。「私はあなた方に懲罰をもたらすことはできない。もしアッラーが望むのなら、それはかれのみによってもたらされるだろう。そしてもしアッラーがあなた方に懲罰を下すのなら、あなた方は決してその懲罰から逃れることはできないだろう。
もしアッラーがあなた方の頑迷さから、あなた方を導くことなく正道から迷わせることを望むのなら、私の助言や警告はあなた方にとって無益である。かれこそはあなた方の主であり、あなた方の諸事を司っているのだ。そしてあなた方は、行いが清算される復活の日、かれのもとへ戻るのである。」
ヌーフの民はその不信仰から、ヌーフが彼らにもたらしたこの信仰について、捏造されたものだと主張した。使徒よ、言え。「もし私がそれを捏造したのであれば、私は不義者として、自らの罪の懲罰が私に降りかかるだろう。しかし、私のもたらすものが真実であるにも関わらず、あなた方が頑迷さと誇りからそれを拒絶するなら、あなた方こそが不義者となり、私はいかなる形であれ、あなた方の罪に対して責任を負わず、無実である。」
ヌーフはアッラーにより啓示された。「ヌーフよ。すでに信じている者を除き、あなたの民は誰一人として信じない。ヌーフよ、長きにわたる彼らの拒絶と嘲笑に悲しんではならない。
われらの観察と加護の下、箱舟を建造せよ。そしてわれらの啓示により、その建造法を知るだろう。不信仰によって自ら不義に陥った者たちに猶予を与えたいがために、われに訴えかけてはならない。彼らは不信仰に固執した結果として、必ず洪水で溺死するのである。」
ヌーフは主の命令に従い、すぐに箱舟の建造を始めた。民の中の権力者たちが通り過ぎるときは、いつも彼を嘲笑していた。その側には水も川もなかったからである。彼らによる嘲笑が続いたとき、彼は言った。「権力者たちよ。箱舟を建造する私たちを嘲笑するなら、溺死するという事実に対して無知なあなた方を、私たちは嘲笑しよう。」
「あなた方はやがて、不名誉かつ屈辱的な懲罰と、復活の日において永遠に途絶えることのない懲罰が誰に下されるのかを知るだろう。」
ヌーフはアッラーに命じられた箱舟の建造を終えた。それからかれの命令は彼らを破滅させるためにもたらされた。彼らが焼いていた炉から水が噴出し、洪水の始まりを告げた。われらはヌーフに言った。「地球上のあらゆる種類の動物、オスとメスのつがいを箱舟に乗せよ。そしてあなたの家族で信じなかったために既に溺死が定められた者以外、そして民の中からあなたを信じた人々を連れ込むのだ。」長い間に渡り、彼はアッラーへの信仰を持つよう呼びかけていたにもかかわらず、民からはごく少数の者しか彼を信じなかった。
ヌーフは彼の家族と民の信仰者たちに言った。「箱舟に乗るのだ。その航行と着陸においてアッラーの御名を唱えよ。主は悔悟する僕たちの罪を赦し、彼らに慈悲をかける。かれの慈悲によって、信仰者たちは破滅を免れるのである。」
箱舟は、山のように大きな波を通り抜け、人間と動物を乗せて航海した。ヌーフは隔離されていた、不信仰者の息子を憐れんで呼びかけた。「息子よ、一緒に箱舟に乗って洪水から逃れよう。あなたが不信仰者たちと共にいるのであれば、あなたは溺れてしまう。」
ヌーフの息子はヌーフに言った。「私は水の届かない高い山に避難します。」ヌーフは息子に言った。「アッラーの慈悲により救われる者を除いては、洪水の懲罰から救われる者は誰もいない。」するとヌーフと息子の間は波で隔たれ、息子はその不信仰によって溺れたのである。
洪水の後、アッラーは大地に命じた。「大地よ、洪水を飲み込め。」そして天に命じた。「降雨を止めよ。」すると水は減り、土地は乾いた。こうしてアッラーは不信仰者を破滅させた。箱舟はジュディー山の上に止まった。アッラーは言った。「不信仰者たちは消え去り、滅ぼされた。彼らは不信仰によってアッラーの定めを超えたのである。」
ヌーフは彼の主に呼びかけて言った。「主よ、息子は私の家族であり、あなたは彼が救われると約束された。あなたの約束こそは常に真実であり、あなたこそは最もよく知る裁決者の中でも最も公正である。」
アッラーはヌーフに言った。「あなたが救いを求めた息子は不信仰者であり、われが救済を約束したあなたの家族の一員ではない。ヌーフよ、あなたの求めはあなたのような地位の者として適切ではない。あなたの知識にはないことを尋ねて、われの知識と英知に反するような、無知な者の一人とはならないよう忠告する。」
ヌーフは言った。「主よ、私が知りもしないことをあなたに尋ねたりしないよう、お助けください。もしあなたが私の罪を許さず、慈悲を受けることがなければ、私は来世において、自らの分け前を失った敗者の一人となってしまうことでしょう。」
アッラーはヌーフに言った。「箱舟から安全な大地へと、安心して降りよ。アッラーからの多大な祝福があなたにあるだろう。そしてそれは、あなたと箱舟を共にした信仰者たちの子孫にもあるだろう。また彼らの子孫からは、われらが現世のひとときの生活を楽しませる不信仰者たちの共同体も出てくるが、彼らへはわれらの痛烈な懲罰が下されるだろう。」
このヌーフの物語は、不可視の世界からの知らせである。使徒よ、われらによる啓示の前、あなたとあなたの民はそれについて知らなかった。それゆえ、ヌーフが忍耐したように、民による迫害や拒絶を耐え忍べ。救済と勝利は、アッラーの命令に従い、かれが禁じたものから遠ざかる者たちにもたらされる。
われらはアードの民の中からフードを遣わした。彼は言った。「民よ、アッラーのみを崇拝せよ。そしてかれに何者をも配してはならない。かれ以外に崇拝されるべき真実の神はない。かれに同位者がいると主張する者たちは、嘘つきに過ぎない。
民よ、私は主から伝達していることに対して、あなた方から見返りを求めてはいない。私の報奨は、私を創造したアッラーからのみである。あなた方はそれを理解し、この呼びかけに応じることができないのか。
民よ、アッラーからの赦しを求め、罪から離れて悔悟せよ。最大の罪とは、かれに同位者を置くことである。かれは豊富な雨を降らせてあなた方に報い、子孫と富の増加によってあなた方の勢力に力添えするだろう。あなた方は私の呼びかけを拒絶し、アッラーへの不信仰から罪深い者となってはならない。」
民は言った。「フードよ。あなたは、私たちを信じさせるような明確な証拠をもたらしてはいない。また私たちは、あなたの根拠のない言葉だけで神々への崇拝を止めたりはしないし、あなたが使徒であるという主張も信じたりはしない。
私たちの神々の中のあるものが、神々の崇拝を禁じたあなたを狂気付けただけなのである。」フードは言った。「私は、アッラーに証言を求める。あなた方も、あなた方がアッラーを差し置いて崇拝する他の神々の崇拝と、私が関りないことを証言しなさい。あなた方が私を狂気付けたと主張する、それらの神々と共に私に対し策謀を企てよ。私に対する猶予は何もいらない。
私たちの神々の中のあるものが、神々の崇拝を禁じたあなたを狂気付けただけなのである。」フードは言った。「私は、アッラーに証言を求める。あなた方も、あなた方がアッラーを差し置いて崇拝する他の神々の崇拝と、私が関りないことを証言しなさい。あなた方が私を狂気付けたと主張する、それらの神々と共に私に対し策謀を企てよ。私に対する猶予は何もいらない。
私の主であり、あなた方の主でもあるアッラーこそを、私は信頼する。地上のあらゆる生物は、アッラーの力と影響なしには存在できず、かれは意のままにそれらを扱う。実に私の主は、真実かつ公正であるため、私が真実を支持し、あなた方が虚偽を支持する限り、あなた方は私に対して力を持つことはないのだ。
たとえ、あなた方が私のもたらしたものから背き続けても、私はあなた方のために、既に与えられたものの全てを伝達し、責任を果たした。証拠はあなた方にとって不利となり、主はあなた方を破滅させ、あなた方に代わって、他の民を継がせられよう。あなた方がかれを拒絶し、背いたとしても、かれは被造物を必要としてはおらず、あなた方は少しもかれを害することが出来ないのである。実に私の主は、凡てを見通され、あらゆる策謀の悪から私を守られる御方である。」
われらの命令が彼らを破滅させたとき、われらは慈悲によってフードと彼を信じた者たちを救い、不信仰の民に与えられた厳しい懲罰から救った。
これらが、アードの民であった。彼らは主であるアッラーの兆候を信じず、かれの使徒フードに背いた。しかし彼らは真実を認めることなく敵対し、驕り高ぶる指導者たちの命令には従ったのである。
その後、彼らは屈辱によって呪われ、現世におけるアッラーの慈悲から除外され、復活の日にもアッラーの慈悲から遠ざけられた。それはアッラーに対する不信仰のためであり、彼らはあらゆる善から遠ざけられ、あらゆる悪に近づけられるのである。
われらはサムードの民の中からサーリフを遣わした。彼は言った。「民よ、アッラーに仕えなさい。かれ以外に崇拝に値する神はない。かれは大地の土からあなた方の父祖アーダムを創造され、そこに住まわせられた。それでかれの赦しを請い願い、かれに服従して悪行を避けつつ、かれに立ち返るのだ。本当に私の主は、真摯に崇拝する僕に近く、祈りに応えるのである。」
民は彼に言った。「サーリフよ、あなたがそう呼びかける以前、あなたは我々にとっては高い地位のある有望な人物であった。しかしサーリフよ、あなたは今になって我々の祖先が崇拝していたものへの崇拝を禁じるのか。あなたが勧めるアッラーのみへの崇拝の教えについて、我々は強い嫌疑を持っている。」
サーリフは民に応えて言った。「あなた方は考えてみないのか。私が主からの明白な証拠の上に基づき、かれが私に預言者としての慈悲を与えられるのに、もし私がかれの命令に従わず、あなた方への伝達を怠ったならば、誰が懲罰から私を救うことが出来ようか。あなた方は私を過ちに陥れ、かれのご満悦から遠ざけてしまうだけである。」
「民よ、これはアッラーの雌ラクダであり、私の主張を証明する、あなた方に対しての明白な兆候である。これをアッラーの大地で放牧させ、危害を加えてはならない。もしそうするなら、あなた方には直ちに懲罰が下されるだろう。」
だが、彼らはそれを拒否してラクダを傷つけた。それでサーリフは彼らに言った。「今後3日間だけ、あなた方の地で生命を楽しむのだ。その後アッラーの懲罰があなた方に下るだろう。これは嘘偽りなき真実の約束である。」
われらの命令が彼らを破滅させたとき、われらの慈悲によって彼と民の中の信仰者たちは救われ、われらはその日の恥辱と屈辱から彼らを守った。使徒よ、疑いもなく、あなた方の主は誰も打ち負かすことのできない強大な御方である。こうして、不信仰者たちは破滅させられたのである。
大きな叫び声がサムードの民を襲い、彼らはそのあまりの熾烈さから全滅した。翌朝、彼らは地面に伏せて倒れていた。
そこはまるで、誰一人として安全に暮らしてはいなかったかのようであった。サムードの民は、彼らの主であるアッラーを信仰しなかったため、慈悲を奪われたのである。
天使たちが男性の姿でイブラーヒームのもとに現れ、彼とその妻にイスハークとヤアクーブ誕生の吉報をもたらした。天使たちは「平安あれ」と言ったので、彼も「平安あれ」と答えた。彼らを人間だと思っていたイブラーヒームは、急いで彼らを焼いた子牛でもてなした。
しかし、彼らは子牛に手を伸ばさず、それを食べようともしないため、不審に思ったイブラーヒームは密かに恐怖を感じた。天使たちは彼の恐れを悟ってこう言った。「我々を恐れてはならない。我々は、アッラーの懲罰を下すため、ルートの民に遣わされたのである。」
そこには、イブラーヒームの妻サーラが立っていた。われらは、彼女がイスハークを生むだろうこと、そしてイスハークの後継ぎとなるヤアクーブの吉報を彼女に伝えた。彼女は笑顔でその知らせを喜んだ。
天使たちが吉報を伝えた時、サーラは驚いて言った。「私は年寄りで子供ができず、夫は老人だというのに、どうして子供ができましょうか?このような状態で子供が生まれるのは、普通ありません。」
天使たちはサーラに言った。「アッラーのお定めとお力に驚くのか?アッラーがこのようなことをお出来になることを、知らないはずはないだろう。イブラーヒーム家の人々よ、あなたがたにアッラーのお慈悲と祝福あれ。アッラーはその属性と行いにおいて称えられ、栄光と高みにあるお方。」
食べ物に手をつけなかった客人らが天使であることを知り、イスハークが生まれ、その後にヤアクーブが生まれるという吉報を受け取った後、イブラーヒームから恐怖が去った。かれはルートの民に関して、われらの使いたちと議論し始めた。それはかれらに対する懲罰が延期され、ルートとその家族を救って欲しかったためである。
イブラーヒームは罰の延期を望む寛容さを持ち、主にへりくだって沢山祈り、悔悟する者である。
天使たちは言った。「イブラーヒームよ、そのような議論は止めよ。懲罰は定められたのであり、主のご命令が来た。ルートの民には偉大な懲罰が降りかかるのだ。議論も祈りも役には立たない。」
天使たちが人の男性の姿でルートのもとを訪れた時、かれは心苦しくなった。それはかれの民が女性ではなく、男性に欲望を持って近づくためだった。かれは、民がかれを押しのけて客人に手を伸ばすだろうと思い、言った。「これは厳しい日だ。」
ルートの民が客人にみだらな事をしようと、ルートのもとに急いでやって来た。それ以前、かれらには女性ではなく、男性に欲望を持って近づく習慣があった。ルートは民を守り、客人への義務を果たすために言った。「これらはあなたがたの女性のうちの、わが娘たちだ。彼女らと結婚しなさい。それがみだらな事よりも清いこと。アッラーを畏れよ。わが客人のことで、恥をかかせるな。わが民よ、このような醜いことを禁じる、まともな理性を持った人はいないのか?」
民は言った。「ルートよ、わたしたちには、あなたの娘やあなたの民の女性に対する必要などなく、欲望もないことを知っているだろう。あなたはわたしたちの望みを知っている。それは男性なのだ。」
ルートは言った。「あなたがたを抑える力か、わたしを守ってくれる親族があったなら、あなたがたを客人から阻むことができたのだが。」
天使たちはルートに言った。「ルートよ、わたしたちはアッラーの使者だ。民があなたに害を及ぼすことはない。真っ暗な夜に家族と共に町を出よ。そして誰も後ろを振り返ってはならない。ただしあなたの妻は聞かずに振り返り、民が受ける罰を受けるだろう。かれらの滅亡の時は朝であり、それは近いのだ。」
ルートの民を滅ぼすというわれらの命令が下された時、われらは町を上に上げてひっくり返し、逆さまにした。そして連なる固い泥の土による石の雨を、彼らの上に降らせ続けた。
それらの石には、アッラーの御許で特別な印がつけられていた。これらの石は、クライシュ族やその他の不正者たちから縁遠いものではない。アッラーがそれを降らせることをお決めになれば、いつでも降りかかる近さにある。
われらはマドヤンにその同胞シュアイブを遣わした。かれは言った。「民よ、アッラーだけを崇拝せよ。かれ以外に崇拝に値するものはない。寸法や秤を人に対して計る際に、それを減らしてならない。あなたがたは豊かな状態にあるが、アッラーの恩恵を罪によって変えてしまってはならない。わたしはあなたがたに懲罰が降りかかることを恐れる。それは誰一人として逃げ場所のない、包囲された日なのだ。
民よ、寸法や秤を人に対して計る時には、公正にきちんと計れ。目盛りを減らしたり、騙したりして、人の権利を奪ってはならない。また、殺人などの罪によって地上で腐敗を行ってはならない。
人の権利を公正に満たした後、あなたがたの手許に残った合法なものの方が、目盛りを減らしたり腐敗を行うことによって得た沢山のものよりも、有益で祝福があるのだ。本当にあなたがたが信徒なら、その残ったもので満足せよ。わたしはあなたがたの行いの監視役でも清算者でもないが、密やかなものをご存知のお方がそれを見ておられる。」
シュアイブの民は言った。「シュアイブよ、あなたがアッラーに対して行う礼拝が、わたしたちの祖先が崇拝していた偶像を崇拝することを、わたしたちに禁じるのか?そしてわたしたちが自分の財産を好き勝手に使い、運用することも?このような呼びかけの前、わたしたちはあなたを理性と英知の人と思っていたが、どうしたのか?」
シュアイブは民に言った。「民よ、あなたがたが主からの明証と英知に基づいているのなら、あなたがたの状態について語ってみよ。わたしは主から合法な糧と、預言者性を授かった。わたしはあなたがたに命じたことに、自ら反したくない。わたしは主の唯一性と服従へと招くことで、出来る限りあなたがたの状態を正したいと思っているだけ。それを成功させて下さるのはアッラーのみ。わたしはかれのみに全てを託し、かれへと帰り行く。
民よ、わたしに対する敵意ゆえに、わたしの伝えることを嘘としてはならない。ヌーフの民、フードの民、サーリフの民に降りかかったような罰が、あなたがたにも降りかかることを恐れる。ルートの民は、あなたがたから時代的にも距離的にも遠いものではない。かれらに起こったことを知っているだろう。熟慮せよ。
そして主からのお赦しを求め、罪から悔悟せよ。主は悔悟する者に慈悲深く、愛情深いお方。」
シュアイブの民は言った。「シュアイブよ、あなたが伝えることはよく分からない。あなたの目が悪くなってから、わたしたちはあなたを弱者と見なしている。同族であるあなたの親類さえなければ、石を投げてあなたを殺したのだが。あなたは、わたしたちが殺害を恐れるほど大事な人ではない。殺さないのはあなたの親類への敬意からだ。」
シュアイブは民に言った。「民よ、わが親類が、主アッラーよりもあなたがたにとって大事で貴いのか?あなたがたに遣わされた使徒を拒否して、アッラーのことも放棄するのか?主はあなたがたの行いを全てご存知であり、現世では破滅によって、来世では懲罰によってあなたがたに報われる。
民よ、あなたがたが満足するやり方で出来る限りのことをするがよい。わたしも自分が満足するやり方で出来る限りのことをする。あなたがたは知るだろう。わたしたちのうちの誰に辱めの懲罰が降りかかり、誰が嘘つきなのかを。アッラーの定めを待つがよい。わたしも一緒にそれを待とう。」
シュアイブの民を滅ぼすというわれらの命令が下された時、われらは慈悲によってシュアイブとかれと共に信仰した者たちを救い、不正な民は大響音に襲われて死んだ。かれらはうつ伏せに突っ伏して、顔を土まみれにした。
かれらはそれ以前、そこに住んでいなかったかのようだった。マドヤンはサムードがそうされたように懲罰を受け、アッラーのお慈悲から遠ざけられた。
われらはアッラーの唯一性を示す印と、伝えることの正しさを示す明白な根拠と共に、ムーサーを遣わした。
かれをフィルアウンとその民の首長たちに遣わしたが、首長たちはアッラーに対する拒否においてフィルアウンに従った。フィルアウンの命令は従うべき真理ではないのに。
フィルアウンは審判の日、民を率いて地獄へ入る。その水飲み場の忌まわしさよ。
アッラーは現世において、かれらに呪いとお慈悲からの放逐をまとわせ、溺死させて滅ぼした。呪いとお慈悲からの放逐は、審判の日までかれらにまとわりつく。かれらに降りかかる2つの呪いと現世と来世での罰は、何と忌まわしいことか。
この章で述べられた町の知らせは、使徒よ、われらがあなたに知らせること。これらの町にはその印が残っているものもあれば、痕跡もなく消え去ったものもある。
われらがかれらの滅亡によって不正を働いたのではなく、かれらがアッラーへの不信仰によって破滅に足を踏み入れることで、自分自身に不正を働いたのだ。かれらがアッラーを差し置いて祈っていた神々は、かれらを滅ぼすという主の命令によって罰が下された時、かれらの役には立たなかった。かれらの神々はこのような損失と破滅しか、助長しなかった。
あらゆる時代と場所において、嘘呼ばわりした町に襲いかかったアッラーの捕え方も、同様だった。不正な町を襲ったかれの捕え方は、痛ましいものだった。
それらの不正な町に対するアッラーの激しい捕え方は、審判の日の罰を恐れる者への教訓。その日アッラーは、清算のために人々を集める。集められた人々が立ち会う日である。
立ち会いの日は、既に決められた数しか遅らされることがない。
その日、誰も許可なく議論や執り成しのために話すことはない。その日、人々は2つに分かれる。地獄に入る不幸な者と、天国に入る幸福な者である。
不信仰と悪行のために不幸な者たちは、地獄に入る。そこでは激しい炎に苦しむ声や息の音が上がる。
かれらはそこに永遠に留まる。天地が続く限り、そこから出ることはない。ただしアッラーだけを崇拝していたが罪を犯していた者たちのうち、アッラーがお望みになった者たちは別。使徒よ、あなたの主はお望みのことを行うのであり、かれに何か強制する者などない。
幸福な者たちは、信仰と正しい行いが運命づけられていた者たち。かれらは天地続く限り、そこに永遠に留まる。ただし罪を犯していた信徒のうち、アッラーが天国の前に地獄に入れることをお望みになった者たちは別。天国の住人に対するアッラーの安寧が途切れることはない。
使徒よ、かれら多神教徒が崇拝しているものの悪を疑ってはならない。かれらの正しさを示す、理性的、合法的な根拠などないのだ。かれらがアッラー以外のものを崇拝しているのは、祖先の模倣に過ぎない。われらはかれらへの罰を、余すことなく完遂する。
われらはムーサーに律法書を与えたが、人々はそこにおいて意見を異ならせた。ある者はそれを信じ、ある者は拒否した。罰を早めることなく、審判の日まで遅らせるという英知にあふれたアッラーの定めがなければ、かれらには現世で罰が下っていただろう。ユダヤ教徒と多神教徒からなる不信仰者たちは、クルアーンに対する疑念の中にある。
使徒よ、意見を異ならせている前述の者たちに対し、あなたの主はその行いの報いを完遂される。善かった者たちには善い報いが、悪かった者たちには悪い報いがある。アッラーはかれらの行いの仔細をご存知である。
使徒よ、アッラーのご命令通りにまっすぐな道を貫き、かれのご命令と禁止事項を守れ。あなたと共に悔悟した信徒たちも正しい状態にさせ、罪を犯して限度を超えないようにさせよ。かれはあなたがたの行いに通暁し、それに対して報われるお方。
妥協や愛情から不正な不信仰者におもねることで、地獄に入ってはいけない。あなたがたにはアッラー以外、そこから救ってくれる守護者も援助者もいない。
使徒よ、昼の始めと終わりに最良の形で礼拝を行え。また、夜の一部にも。正しい行いは小さな悪行を追いやるのだ。このことは熟慮する者たちへの訓戒である。
正しい状態であれとのご命令と、度を越したり不正に傾いたりすることの禁止を守ることにおいて忍耐せよ。アッラーは善行者の報奨を無駄にはなさらない。かれはその行いの最良のものを受け入れ、最良のもので報いて下さる。
あなたがた以前に罰が下った社会には、不信仰や罪によって地上に腐敗を広めることを禁じる、徳と正しさを備えた者たちがいなかったのか?腐敗を禁じるわずかな数の者しか、そこにはいなかったのだ。不正な民を滅ぼした時、われらはかれらを救った。不正者たちは安寧を追及していたが、そこにおいて不正を犯していたのだ。
使徒よ、あなたの主は、町の民が地上における改善者である時、その町を滅ぼすことがない。滅ぼすのは、その民が不信仰や不正や罪で腐敗を広める者たちだった場合である。
使徒よ、人々が真理の上に一つの共同体となることを主がお望みなら、そうされただろう。しかしそうは望まなかったのだ。かれらは欲望の追求のために、真理においてまだ意見を異ならせている。
ただし、主が成功へとお慈悲をかけてくれた者は別で、アッラーの唯一性において意見を異ならせることはない。この意見の違いによる試練のため、かれはかれらを創造した。かれらには不幸な者もいれば、幸福な者もいる。使徒よ、シャイターンを追従するジンと人間で地獄を満たすという、主の御言葉は原初において定められたのだ。
使徒よ、われらがあなたに語る過去の使徒たちに関する知らせは全て、あなたの心を真理の上に確固とさせるため。この章には、あなたへの疑念の余地のない真理と、不信仰者に対する訓戒、信徒への有益な教訓があるのだ。
使徒よ、アッラー信仰をしないでその単一性を受け入れない人たちに言いなさい。真実を妨げ、他者にそれを妨げるあなたがたの行いを続けなさい。われわれも真実を守る行いを続け、それを呼び掛けて、忍耐強くするのだ。
わたしたちはあなたたちに何が起こるかを見るし、あなた方はわたしたちに何が起こるかを見るだろう。
アッラーだけが天と地の見えないことに関する知識を持たれる。何も隠されない。最後の日にはすべてがかれに返されるのだ。だからかれのみを崇めるように。使徒よ、すべてにおいてあなたの信頼をかれに寄せるように。かれが知らないことはない。かれは全知であり、誰に対してもその行いを報われる。